[4269]捉えどころのない長大な曲に無色透明なヴァイオリンが別世界に誘う | TRAZOM@さるさる横丁

[4269]捉えどころのない長大な曲に無色透明なヴァイオリンが別世界に誘う

【今日の一枚】
エルガー: ヴァイオリン協奏曲、あげひばり
〔ハーン(vn)デイヴィス=ロンドン交響楽団〕
[CD]DG◎4745042(輸)



7:30起床。
子供のころ、気に入ったお菓子をまとめてずっと食べつづけていた。こんな歳になっても小さい時の習慣から抜け出せないのか、心に引っかかった音楽ばかりまとめて聴くクセがついてしまっています、トホホ。

○歌わせる竹澤恭子
エルガーの交響曲をきっかけに他の曲にも手を出して、さて今日はヴァイオリン協奏曲です。長くて難解な曲。口ずさめるメロディなんてない。どうやったら魅力的に聴けるのだろうか。
これまで食わず嫌いでいたんですが、どうにも気になって、ボクにとって一種の挑戦です。

まずは図書館から竹澤恭子盤を借りて聴いてみました。ウナギのようにつかみどころのない曲。簡単になじめないなと思いつつ、竹澤恭子の巧いヴァイオリンに惹きつけられる。少しポルタメントをかけ、そこが日本人的というか、熱を帯びた演奏で好感がもてるのです。

○SFの世界に誘われるハーン
指揮は竹澤恭子盤と同じくデイヴィス。彼はよほど気に入ったのか、この曲を何度も録音しています。1993年(竹澤恭子)2003年(ハーン)2009年(ズナイダー)という具合に。しかもオケは3種とも異なっているのが興味深いところです。
さてハーン盤について。繊細で透徹した響きにまず魅了されました。竹澤恭子がヴァイオリンらしさを全開したとするなら、ハーンはヴァイオリンらしさを超越しているとでも言おうか。現実と別世界の区別がつかない、SFでみるような永遠の空間に誘われるような錯覚をおぼえます。
長大なエルガーの50分の旅。聴き終えて現実により戻され、さてどこをさまよっていたのか、不思議な感覚にとらわれてしまいました。一体あれは何だったんだろう。

○出色の「あげひばり」
ヴァイオリン協奏曲が曲を閉じ、続けてヴォーン・ウイリアムズの「あげひばり」が奏でられます。幻想的で消え入るようなヴァイオリンがこれまたいい。
かつてスーカーマンとバレンボイムの指揮で聴いたことがありましたが、あちらはメロディアスな面を強調していました。
それに比してハーンはいかにも儚い。すっとゆらめいている。最後はあげひばりが遠くへ羽ばたいていって、小さな姿が消え去るまでの時間が本当に惜しく感じられるのです。
エルガーの曲が苦手でも、この「あげひばり」だけでも聴く価値はあると請け負います。