ともぞうはもやしが嫌いだった。あの生臭い、歯触りの悪い、いくら食っても腹にたまらないあのもやしが嫌いだった。おまえを胃に収めたところでこのともぞうにいったいどんな得があるというのだ?そう、それはまるで冷え切った関係の夫婦のような付き合いだったのだ。そう、あの時が来るまでは。

 

ある真冬の寒風吹きすさぶ夜中のことだった。何だか知らないけどひまでネットを見ていたらcookpadっていうものに出会ってしまった。まるで劇的な運命の出会いのように、磁石のように男はそのサイトに引き付けられていく。そして、そこにはまるで黄金色のように輝いて見えるもやしのレシピがのっていた、、、、、、。

 

数日間の熱く激しい葛藤の末に、とうとうスーパーに行ってもやしを買ってきてしまった。そして、気が付けば台所に立つ自分がいる。いいのか、ともぞうよ、本当にいいのか?まるで不倶戴天の敵のように忌み嫌っていたあのもやしとお前は恋に落ちてしまうのだぞ。お前の良心はいったいどこにあるのだ?それは人としてどうなのだ?

 

至福の逢瀬が過ぎた後で、とうとうともぞうの心と体はそのもやしにむしばまれてしまった。それからはもう、働いていても誰かと過ごしていてもぼんやりとしていても、頭のどこかでもやしのことを考えるようになってしまっていた。そしてそこにはまるで青春のころのような、若々しい自分がいた。

 

          ともぞう

 

(ひと手間かけるだけでこんなにうまくなるなんて、、、、、。)

 

毎年のこの日 2月8日は針供養の日です

基本的にともぞうは針仕事が苦手である。けれどもやしと恋に落ちるのならば針仕事とそうなることだって、、、、、。なんて恐ろしいことだ!