ハニトー大人編(仮)①
「ジュンス」「あっユチョン」振り向いてにぱりと笑う、見慣れたその顔に、不意に高鳴るこころ。出会ってから12年、付き合い始めて10年。今日も俺は、この可愛い年上の人に恋をしている。店が休みの火曜日。職業公務員の恋人は当然のごとく、1日仕事で不在だから、いつもなら、家の掃除やら、料理の作り置きやら。一週間分の家事を片付けるけれど。珍しく、恋人から誘われたデート、と言っても単に外食しようってだけだけど。のために、日も落ちた夕方6時、最寄り駅の駅前で待ち合わせをしていた。恋人は定時ダッシュで頑張ってもギリギリ間に合うか、ぐらいの時間だと分かっているから、こちらもギリギリの時間に到着するように向かう。流石に、来ないと分かっているのに早く着いて待つような、うぶな乙女?心はこの10年で失ってしまった。それは決して、気持ちが冷めたとか、そんな悲しいことではなくて。むしろ、年を経るごと、伝えきれない"好き"は増していて。ただそう、一緒にいることが当たり前になって、肩肘を張る必要が無くなった。それだけのこと。例えば、数え切れないほど歩いた、この道。一目だけでも顔をみたいと、こっそり遠回りをしては逢えずに落胆した。彼に選ばれる自信なんて到底なく、堂々と隣に立つ女性に嫉妬した。理不尽な嫉妬だと分かっていても自分を制御することなど出来なかった。子供な自分に、どうしようもなく焦燥に駆られたあの頃。あれから10年。彼と共に過ごすことを許され、どれだけの言葉を尽くされても、早く大人になりたいと、自分が情けなくて悔し涙を流した夜は一度や二度ではきかなかった。数年前に成人を迎え、どうにか就職もして。世間的には十分大人と呼ばれる年齢になったけれど、それで彼に追いついたなんて、とても思えはしなくて。それでもーーー「ジュンス」「あっユチョン」何やら熱心にショーケースを覗き込む、見慣れた後ろ姿に声をかける。振り返る背中を包むチェックのチェスターコートは、就職した年に、俺が、初めてのボーナスでプレゼントしたものだ。自分はぽんぽん高価な物を買い与えようとするくせに、俺が子供だからと。ちっとも返させてくれなかった彼に、初めて受け取って貰えた、少しだけ高価な贈り物。自分の為に使えばいいのにと。ちょっと困ったような。でも、嬉しさを隠しきれない様子で受け取ってくれた彼に。入ったばかりのボーナスなんて、大した金額でもなくて、彼に、家族に、買った贈り物で、殆ど使い切ってしまったけど、後悔なんて少しもなくて。金銭ばかりが全てじゃないって、分かってはいたけれど、それでも。ほんの少し、今まで一方的に与えられてきたものを返せた気がして。それが、どうしようもなく嬉しかった。大切な思い出の一つ。洋服なんて無頓着で、どんなに言ってもハンガーにかけ忘れるどころか、床に脱ぎ捨てっぱなし、なんてこともざらだった彼が、このコートだけは、本当に大切に、皺もつけないよう、いつもきっちりハンガーに掛けてくれていて。そんな彼の態度が面映くもあり、でもやはり嬉しくもあって。「何をそんな熱心に見てるわけ?」「これ、このケーキ」全てを言うまでもなく、指さされたその先にあったのは、可愛らしい、ハート型の、繊細にデコレーションされた、チョコケーキ。「う、あ、これ」「懐かしいでしょ?」プロが作ったそれは、真面な菓子作りなんて初めての中学生が作った稚拙なそれとは比べ物にならない、隙のない美しい出来だったけれど。あの日、初めて渡したバレンタインのプレゼントに、よく似たデザインだった。「またそうやって揶揄う!」「そんなことないって!本当に、懐かしいなって思ったの」気恥ずかしくて、思わず軽く睨んでしまったその顔が、ほんの少し自分より低い位置になったのは、高校生の頃のこと。「もうっあんな下手くそなのいい加減忘れろよ!一昨年も去年も、もっと良いやつ渡しただろ」「やー、まぁ、そうなんだけど」「そうだよっ。全くもう」「だって、やっぱり初めては特別だから」「っばかっ!」不意打ちで恥ずかしいことを言い出す彼に、思わず顔が熱くなる。付き合い始めて10年目。毎年欠かさず渡してきたチョコだって、今年で10個目。何度も練習を重ねてきたそれは、どう贔屓目に見たって、”初めて”より、断然上等な出来だったに違いないのに。ここ数年に至っては、曲がりなりにも、プロとして、仕事でやっている中で、1番の自信作を渡しているのに。折につけて彼は、”初めて”の話を持ち出す。俺自身、やはり一番思い入れがあるのは”初めて”だから。それが嬉しいような、悔しいような。「ふん!今年こそ、ギャフンって言わせてやるからな」複雑な気持ちが、生意気な言葉を吐かせて。「えへへ、今年も期待してます」それを気にせずにぱっと笑う彼の反応までがもはや様式美で、見慣れた姿ではあるんだけれど。何度見ても、不意打ちの笑顔にきゅんとしてしまう。何か買う訳でもなく、ただショーケースの前を塞いで喋っているだけの俺たちに、嫌な顔をするでもなく、むしろ、ジュンスの顔ばかり見ている、若い女性店員に嫉妬した、訳ではないけど。イベントがイベントだからか、客層すら女性だらけな場所に男二人居座っているのも居心地が悪いかと思い出した頃。「あっ予約の時間やばっ」「もうっ早く言えよっ」ちらりとスマホを見たかと思えば、急に慌てだした彼に、形だけお小言を言いながら、ばたばたと掛けていく。「すみませんっ7時から予約してるんですがっ」店に謝罪の電話を掛けながら、謝るたびに見えない相手に頭を下げる彼の後ろ姿を眺めながら。こんな日常が、いつまでも続くといい、と。何度目かわからない、幸福感を噛み締めながら、願った。続く物凄くお久しぶりに更新してみました。※いつもよりいっそうポエム唐突に更新が途切れてしまい申し訳ありません。心配してくださった方々、ありがとうございます。頂いたコメントやメッセージには、追い追いお返事できればと思っています。さて、唐突に潰れた理由ですが、私ごとなのですが、密かにハニトーのジュンス氏の行動パターンのモデルにしていた、長い付き合いの恋人と、諸々ありまして、しばらくハニトーを視界に入れたくない気持ちになっていました。ようやく気持ち的に落ち着いてきたのと、先日久しぶりにファンミで生ユチョンをみて、まだ書きたい妄想があるなーと思ってしまいまして、唐突に今更季節外れのバレンタインネタを書いてしまったわけです。不定期にはなりますが、今後はまた週一くらいで更新できたら、と思っています。おヒマな時にでも覗いてやって下さいませー高校生編は構想が壮大すぎて書き切れる自信がなくなってきたので、邪道ですがさくっといける10年後の二人にしてみました。後数話、昔を懐かしんだりなんだりする二人の日常を描きたいと思っています。