アメリカ創価大学でのある日の授業。出された課題は「好きな場所に座って目を閉じ、少しの間、周りの音を感じること」だった。これは環境の中で音を風景として捉える「サウンドスケープ(音風景)」の実験。課題を終えた学生は「こんなに多くの音に囲まれているとは知らなかった」と語っていた

 私たちの耳には普段からさまざまな音が入ってくるが、日々の生活であまり意識することはない。だが意識を向けると、確かに聞こえていることが分かる

 例えば人混みの中で会話する時。周囲の音で聞きづらくても“目の前の人の話が聞きたい”と思って集中すれば、その声を聞き分けることができる。これは私たちの脳が音を補正し、必要な音だけを抽出するからだ

 法華経に登場する「観世音菩薩」。“世の音を観ずる”と書くように、世の中のあらゆる音、人々の悩みの声を聞き、慈愛で包んでいく菩薩である。仏法では、そうした働きは私たちの生命にも具わっていると説く

 人それぞれ、声には心の微妙な変化が表れる。声にならない声もあるだろう。目の前の友の声に意識を向け、耳を澄ませる。奥底の思いをくみ取り、寄り添っていく――そうした“心の音”への感受性豊かな人でありたい。 

【619 聖教新聞·名字の言】