遠藤周作氏の短編小説「戦中派」に演奏会のシーンが出てくる(『十一の色硝子』所収)。戦時中、名バイオリニストの巌本真理さんが演奏会前夜に空襲で焼け出された実話から着想を得たという

 翌日、奏者の女性は焼け野原を歩き、演奏会場へ。途中、群衆とすれ違う。“出演者行方不明のため、音楽会は中止”と知らされ、肩を落として帰る人たちだった。だが彼女を見るや、一群は「音楽会はあるぞ」と会場に戻った。逃げた時の格好のままで彼女は奏でた。聴衆は目を閉じ、静かに聞き入った……

 いつの世も、音楽は“生き抜く力”を渇望する民衆に希望を与える。宗教学者のガイヤ博士は「宗教は、芸術や音楽を通して、その精神を人々に最良の形で伝えていくことができる」と

 仏法を基調とした妙音で、世界を幸福に包む実践者の使命を帯びて音楽隊、鼓笛隊は結成された。以来、両隊は渾身の演奏で、宿命に泣く友へ希望を届け、苦難と格闘する同志に勇気を送り続けた。これまで音楽隊が災害からの復興に歩む人々を励まそうと開催した「希望の絆」コンサートは174回を数える
 
 今月も両隊は各地のパレードで勇壮な音律を響かせた。この妙なる調べの共鳴が、平和の心を呼び覚ます。 

【5/8  聖教新聞・名字の言】