ユネスコの世界文化遺産に登録された北海道・北東北の縄文遺跡群。津軽海峡を挟み、この地域は、同一の文化圏を形成していた
 
 縄文時代は日本独自の時代区分。世界でも珍しい「採集・漁労・狩猟」による人間の定住の中で、墓や土偶など精緻で複雑な精神文化が生まれた。その間、約1万年は戦争が起きなかったといわれる

 私たちの周囲にはモノがあふれ、縄文時代とは比較にならないほど、暮らしは便利だ。だが、縄文遺跡群から学べることは数多くある。その一つが「持続可能性」。函館市の「垣ノ島遺跡」からは世界最古の漆器が出土した。一本の木から少量しか採れない漆の特性を知り、数年先を見越しながら、自らの生活に必要な樹液だけを採取していた

 際限なき消費は生態系のバランスに影響を及ぼす。現在の感染症や気候変動も、その均衡が崩れたことに起因する。昔の生活に戻ることが解決策にはならないとしても、過去に学び、未来を見据え、自らの生活に本当に必要なのかを問う――そうした、生き方の転換が迫られていよう

 縄文時代の人々は、自分と環境が結び付いていると捉えていたという。持続可能な社会へ、この生命共生の心こそ、次代に受け継ぎたい遺産である。 

【10/2 聖教新聞・名字の言】