他者を思いやる心や振る舞いが、どれほど自身の生命に影響を及ぼすか。あの過酷なナチス収容所の中で、奇跡的に生き抜いた人々を調査した結果がある。それによると、生存者のうち82%もの人が、餓死寸前になっても、わずかな食料を分け合うなどして、「周りの人たちを助けたいと思った」というのだ(ケリー・マクゴニガル『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』神崎朗子訳、だいわ文庫)

 もちろん極限状態に置かれた人々の体験は、軽々しく論じられるものではない。が、それほど重い事実ゆえに、「人類の教訓」であることは間違いないだろう

 近年の度重なる自然災害、そして未曽有のコロナ禍を経験し、強く実感したことがある。それは“自分だけの幸福や安全もなければ、自国だけの平和もない”ということだ

 きょう、生誕149周年を迎えた初代会長の牧口常三郎先生は、軍事力や経済力を競う時代から「人道的競争」の時代に転換する重要性を訴えた。他を押しのけて己を利する――その生き方の先には、人間の真の幸福も、国や地域の永続的な繁栄もない

 他者に尽くせば尽くすほど、自身の生命力が増す。自らも栄える。これが菩薩道の妙。自他共の幸福を目指す挑戦と連帯で、「人道的競争」をリードしていきたい。 

【6/6 聖教新聞・名字の言】