中国によるニカラグア大運河建設の意味をアメリカはまだ過小評価している観があります。かって、ソビエト連邦・ロシアがカリブ海のカストロの国、キューバにミサイル基地を作ろうとした時のケネディ大統領の断固とした態度が思い出されます。世界が一瞬緊張したものでした。不退転の決意で海軍を出動、キューバを包囲したのです。フルシチョフは驚き、ソ連は即刻キューバの基地建設を断念しています。


アメリカにとって現状は(ある意味で)それ以上の問題かも知れません。将来に不利益をもたらすと推測できる中国の施策を、強く阻止する意志の表明もなく放置しているかに思われます。近い将来の災厄を看過しているようにも思えるのです。


中国にとってニカラグア運河建設はおそらく建国以来の快挙の一つとなるでしょう。鄧小平の改革解放以来、最大の成果と言えるかも知れません。一つには、ペルーからアルゼンチン、チリに至る南米各地で契約済みの膨大な天然資源、それに長期予約してある農産物の自国への輸送には、大西洋から太平洋へ運河による横断が重要ルートとなるからです。


アルゼンチンでは中国の一州に匹敵する広大な農地をすでに取得して大量の食料を生産して自国に持ち帰る20年契約をしています。穀物タンカーのための港湾浚渫やサイロの設備も間もなく完成するそうです。


ペルーやボリビア、エクアドル、チリでは鉄鉱石、銅鉱石、ボーキサイトなど重量鉱石類の搬出がすでに日本向けの数倍行われています。ベネズエラからの原油購入も継続していてチャべス大統領時代同様、次の政権も中国とは良好な関係にあるようです。


中国の中南米諸国との交易額は数年以内に、更に倍増すると言われています。中国製品(衣類、電化製品、産業機械類、日用雑貨)の輸出、と天然資源・穀物・畜産物の輸入で、確かな統計はありませんが、総貿易量は日本はおろかEUの全体量でも及ばないだろうと思われています。中南米が今後、中国の最大マーケットになるのは予想されるところです。


しかし、ニカラグア運河の本当の価値は言うまでもなく運河そのものにあります。ニカラグア政府との契約は、運河建設後、50年間(さらに50年間の更新可能で)実質100年間、運河の管理運営権と運河流域の開発利用権をともに保障するというもので、実質的にニカラグア政府は、中国に運河とその流域をセットで百年間、租借地として貸与したことになるのです。


ニカラグアは現在世界の最貧国のひとつで(完全失業率45%)、そのため運河建設が何ものにも代えがたく、中国の建設費全額負担による運河完成のために十二分な見返りを支払ったものと思われるのです。ニカラグア政府は、運河完成後には船舶通航税によって国の歳入の八割が賄われ、パナマのように豊かな国家になれると目論んでいるのです。


中国にとって、最大の収穫は中南米に於ける将来の、確固とした軍事的プレゼンスであろう、とは予想できることです。ニカラグア運河の効用は太平洋と大西洋に跨る立地で、その通航管理権を自国の手中にするのは、日本流にいうなら、天下分け目の戦いで天王山を手中にした者の気分かも知れません。


アメリカは生憎、来年11月に大統領選挙となり、その間の一年間は意識が国内に集中しがちです。選挙戦はもう始まっているとも言われています。政治家のだれもが気もそぞろなのは傍目にもわかるようです。中国にも日本の動向にも注意は幾分散漫になっているようです。中国のAIIB設立に参加しないように、親密な同盟国の(はずの)イギリス、カナダ、オーストラリアに不参加を要請することもなかったようで、そのため日本も参加すべきかどうか、一瞬、逡巡していたフシがあります。


今月6日に麻生財務相が中国に赴き日中財務会談を3年2ヶ月振りに開催(とあります)、AIIBについて協力要請があり、出資協力をする約束をしたかどうか不明ですが、表面的には友好回復の笑顔を見せていました。同時に、三菱UFJ銀行が日本初の人民元建て債権を、初回70億円相当で国内販売する旨、中国の合意を得たと発表しています。よいタイミングで中国に必要な資金協力は始まっているようです。


別紙では、(中国人民銀行の6月11日付リポートによると、かねて要請中のIMF〔国際通貨基金〕への特別基金引出し権の採用を、ひき続き働きかけて行く方針)とロイター通信に報じられています。中国はIMFの大口出資国で特別基金引出し権があるのですが、この時点での資金引出し交渉が不調に終わっているようです。


ニカラグア運河建設資金は500億ドル(6兆円)と見積もられていて、全額を中国が調達引受ける契約なので、完成予定の2019年までに全額工面することになるのです。中国の資金難はもう始まっているとも言われ、日本に一転、笑顔外交で接してくるのも異とするに当たらないようです。


巨大公共工事には付き物の初期トラブル、資金調達と住民による反対運動(土地収用や環境問題など)で、これらを早期に解決出来れば建設は予定を大きく外すことなく完成するものと思われます。完成は4-5年先になるでしょうが、アメリカの獅子身中の虫となり、新大統領の頭痛の種、煩悶の種となりそうです。