奥豊後に広がる平野を流れる大野川とその支流の平井川を流れる滝は「大野のナイアガラ」の別名があります。この滝は、大野川を流れる雄滝(おたき)平井川から大野川に流れる雌滝(めたき)をあわせて沈堕の滝(ちんだのたき)とよばれています。


[所在地]

 大分県豊後大野市大野町矢田


[経緯座標]

 北緯:32度59分1秒/東経:131度31分15秒 (雄滝)

 北緯:32度59分5秒/東経:131度31分28秒 (雌滝)


[沈堕の滝までの経路(豊後大野市役所前より)]

 国道326号線を南西に進む…豊後大野市三重町市場の「市役所入口」交差点より緒方方面へ約300m。

 「市場一区」交差点を直進(国道502号線へ)…清川・緒方方面へ約5.6㎞。

 小さな「沈堕の滝」案内板に従い右折…県道26号線へ。約1.2㎞で駐車場に到着。


豊の散歩道 ~豊国を歩く~ Toyo no Sanpo-michi-沈堕の滝①
沈堕の滝の雄滝と雌滝



 室町時代、文明8年(1476年)頃に雪舟がこの滝を訪れ、自然のありのままを描いた「鎮田瀑図」(ちんだばくず)も残されています。雪舟が明で会得した山水画の神髄を結集した作品といわれているそうです。


 明治時代末期、明治42年(1909年)に沈堕発電所が建設され、雄滝に取水堰が設置され、約3㎞下流の川辺ダム(豊後大野市三重町川辺)の上流に発電所が建設される大正12年(1923年)まで、この滝の水のエネルギーが利用され電力に変えられました。雄滝と雌滝の間にはその発電所跡である石造建築物が残されています。


豊の散歩道 ~豊国を歩く~ Toyo no Sanpo-michi-沈堕発電所跡
沈堕発電所跡(見学自由)


 また、この滝には古くから歴史的史実や竜神にまつわる伝説の数多く残っているそうです。そのうちのひとつが「龍になった娘」の伝説です。


 今は、関アジ・関サバでも有名な佐賀関(さがのせき)に早吸日女神社(はやすひめじんじゃ)が鎮座しています。昔、その早吸日女神社の宮人(関家)の夫婦には子どもがなく、早吸日女神に子どもが授かるように祈願していました。

 ある日、宮人は所用で大野郡の沈堕の滝の近くを訪れたとき、子どもたちが1匹の蛇をいじめていました。宮人は子どもたちに頼んで蛇を逃がしてやりました。

 その年の暮れに、ようやく願いがかない、夫婦にかわいい女の子が産まれました。女の子は父母の愛情を受け、成長するにつれてますます美しい娘に成長しました。

 ある夜、娘と一緒に風呂に入っていた母が、娘の背中に3枚の鱗(うろこ)が並んで怪しく光っているのを見つけました。母は、やがて婿を迎える娘の身体に鱗があってはと神にお願いすると、鱗は綺麗に取れましたが、また数日後には背中に鱗があらわれました。

 あるとき、娘は重い病にかかってしまい、毎日、床にふせって暮らすようになりました。そんなある晩の事、母が薬を持って娘の部屋に入ると、なんと真赤な舌を出して、とぐろを巻いた大蛇がいました。あまりに驚いて口もきけない母でしたが、大蛇はたちまち娘の姿になりました。

 さらに、ある嵐の日の夜、戸をたたく音がしました。母が戸を開けてみると、「旅の者ですが、今夜の嵐で泊まる宿がみつかりません。一晩、泊めていただけないでしょうか?」と訪ねてきた尼の姿をした女性でした。母が対応に困っていると、娘が起きて来て「どうか泊めてあげてください」と頼むので、泊めることにしました。

 翌朝、なかなか起きてこない旅人が心配になり、部屋を訪れると旅人は部屋からいなくなっていました。すると娘が両親のそばにやってきて「私はむかし、沈堕の滝で父上に助けられた蛇の化身です。ご恩返しにと、おそばにおかせていただきましたが、帰らねばなりません。どうか明日の朝、私を沈堕の滝まで送ってください。昨夜の旅の者は、滝からのお使いの者です」と告げました。
 こうして翌朝、夫婦は娘と沈堕の滝へと向かいました。やがて滝のほとりまで来ると、娘は「長い間、お世話になりました。私はこの滝壷に入り、竜になります。お父さま、お母さま、どうぞお元気で」とお礼の言葉を告げて、静かに滝壷に身を沈めました。
 しばらくして、滝の中から音がして、やがて髪を振り乱した娘が「お父さま、どうか脇差の刀をお貸しください。この滝には主がいて、その主を倒さなければなりません」というので、父が脇差を与えると、娘は再び滝に身を沈めました。やがて水底で大きな音がすると、水が赤く染まって、滝の中から脇差を口にくわえた一匹の竜が姿を見せました。夫婦が思わず手を合わせると、竜は大きく頭を下げて、再び水の中に消えてしまいました。
 それからは毎年、六月(みなづき)の晦日(つごもり)の大祓(おほはらへ)の日、竜になった娘は大野川を下って、佐賀関の早吸日女神社の「宮の池」に姿を現すようになったそうです。その日は、神社の古井戸で竜が一夜を明かすので、井戸をのぞくとたたりがあるといわれているそうです。


 蛇になった娘の恩返し。どこか心温まる、どこか悲しい感じもする内容の物語ですね。鶴の恩返し、浦島太郎など、鶴や亀・蛇…たくさんの動物たちの恩返しの物語。人も動物たちと同じ生き物なのだから、差別することなくともにある暮らしをしなければ…と教えてくれているようにも感じられるのは私だけでしょうか?(笑


豊の散歩道 ~豊国を歩く~ Toyo no Sanpo-michi-沈堕の滝②
沈堕の滝の雄滝

 沈堕の滝の雄滝は、落差約17m、幅約93mで川幅いっぱいに勢いよく流れ落ちていました。水しぶきも舞っています。時間帯によっては虹も見えるのかもしれませんね。

豊の散歩道 ~豊国を歩く~ Toyo no Sanpo-michi-沈堕の滝③
沈堕の滝の雌滝


 雌滝は落差18m、幅約24mの滝で、平井川の最下流でもあり、雄滝から下流に300mほどの東岸の滝水が落ちたところで、宮崎県西臼杵郡高千穂町五ヶ所に源流をもつ大分県の大河である大野川に合流します。雌滝に近い所の川のほとりには杵築神社(きつきじんじゃ)【大国主命、他】も鎮座しています。時間があればお詣りしてみてくださいね。近代遺跡の沈堕発電所跡については、またの機会に紹介できればと思っています。