韓国囲碁界の第一人者(韓国等級ランキング1位)李セドル九段が1年半の休養を所属する韓国棋院に申し入れる。

実兄でマネージャーを務める李サンフン七段は同氏へのインタビューで6月1日に韓国棋院に休職届けを提出したことを明かしている。ただし、休職届けが正式に受理されたのか、現在どのような扱いを受けているのかについては未確認である。

事の発端は李セドル九段が今期韓国リーグへの不参加を表明したことにある。
韓国リーグとは企業その他が自社のチームを編成して行う団体リーグ戦である。ゴールデンタイムに対局が生中継され、屈指の人気コンテンツとなっている。
もっとも、露出が多く人気が高いことはスポンサー料金が高額であることを意味する。昨年来の経済危機で多くの企業協賛大会が打ち切りとなったが、韓国囲碁界もこの影響を受けた。
第一火災が韓国リーグからの撤退を表明。この第一火災チームで主将を勤めていたのが李セドル九段である。

所属チームを失った李セドル九段は参加チーム数が従来どおり8チームであれば別チームから参加するが減少すれば参加を辞退するとの姿勢を採った。そして実際に参加チーム数は7チームとなってしまったのである。

第一人者が注目度の高い棋戦への参加を拒む。騒ぎになるのは当然のことであろう。折りしもネット上では、李セドル九段は賞金の高い中国甲級リーグを重視し国内棋戦を軽んじている、との批判が高まった。背景には李セドル九段が中国甲級リーグで得た賞金の5%を棋士会に納めることを拒んでいると言う事情がある。
一方、李セドル九段の言い分はこうだ。韓国リーグにはもともと第一火災との深い付き合いがあって参加していたもので以前から参加を取りやめる意思があった。

ところで個人的な意見だが、棋戦出場に関する韓国棋院・棋士間の取り決め、棋士会内部の規約に不備があるように思えてならない。韓国のビジネスはよく言えば大陸的で大らか、融通が利くのだが、悪く言えば大雑把で場当たり主義的な側面がある。今回の騒動は後者の悪い面が表面化してしまったものであるように感じる。

騒動を受けて5月26日に棋士総会が開催され、李セドルに対して何らかの懲戒(具体的内容は未決)を行うことが賛成86票、反対37票、棄権2票で決定された。対象となったのは韓国リーグ不参加の件で、甲級リーグの件は額が小さいと大きな問題にはならなかったようである。
この懲戒決定に心身共にストレスを受けて休養宣言に至ったというのが経緯である。プライドも少なからず傷ついたであろうし、これだけの実績を上げているのにどうして周りは自分のことをわかってくれないんだ?と無力感に苛まれているのではないだろうか。

すねているだけで責任ある立場にある者としての自覚に欠けるとの見方もできよう。しかし人間は感情の生き物である。時として合理的であることより、些細な誤解、感情のもつれのほうが重要な意味を持つ。私は李セドル九段に大いに同情する。

李昌鎬九段も対局過多を理由に名人戦への参加を辞退している。名人戦は伝統のある重要棋戦である。棋戦への一流棋士の参加辞退はありうることなのだ。
李セドル九段のスケジュール過密も想像に難くない。26歳とまだ若いとはいえ、精神的・肉体的疲労の蓄積は相当なものであろう。セドルの碁を見る機会がしばし失われるのは残念なことだが、先々のことを考えればここで一息入れるのも意味のあることだと思える。

まもなく開催されるTV囲碁アジア杯、進行中の富士通杯へは参加するそうだ。
しかし、年末に防衛戦を控える名人戦、開幕したばかりの甲級リーグ戦、キャラクター使用権契約を結んだキングス社との関係など解決すべき問題も多い。

休養自体未だ正式に決定したものではない。どんでん返しがあるかもしれない。いずれにしても李セドル九段が一日も早く精神的な安定を取り戻し元気な姿を見せてくれることを願うばかりである。加えて今後同様の問題が生じることのないよう関連規約の整備が進むことを切に望む。