カジノ@松原文枝監督が見た“ハマのドン”藤木幸夫氏 カジノ阻止「決めるのは市民」と最後までブレず | 堺 だいすき ブログ(blog)

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松原文枝監督が見た“ハマのドン”藤木幸夫氏 カジノ阻止「決めるのは市民」と最後までブレず 


日刊ゲンダイDIGITAL映画「ハマのドン」監督の松原文枝氏(C)日刊ゲンダイ



 【注目の人 直撃インタビュー】大阪カジノ「めっちゃ儲かるやん」は本当? 売り上げ、納付金、年間来客数への素朴な疑問 松原文枝(映画「ハマのドン」監督) 

  2年前の夏、横浜で「カジノ誘致」の是非を争点にした市長選が行われ、反対派の市長が誕生。


当時の菅首相退陣の引き金になった。


菅首相に反旗を翻した「ハマのドン」を追ったドキュメンタリー映画が来月5日から公開される。日本にカジノはいるのか、民主主義とは、保守とは何なのか、などさまざまなテーマが浮かび上がる。松原文枝監督に話を聞いた。  

◇  ◇  ◇ 

──本作はテレビドキュメンタリーとして放送され、数々の賞を受賞し映画化となりました。


取材しようと思ったのは? 


当時も今も社会の状況は変わっていないと思うんですが、「忖度」だとか、物を言えば何らかの不利益を被る。


霞が関の役人が飛ばされたり、政治家は小選挙区の公認権があるから、総理総裁に物を言えない。


そんな中で、権力側にいた人が権力に対して立ち向かうのは、普通じゃなかなかできないことです。 


負ければひどい仕打ちを受けるのに、カジノ政策を進めてきた菅さんのお膝元で、藤木さんがよく「反対」と言ったなと驚きました。


世論の反対が大きいにもかかわらず、カジノ解禁法も実施法も強行採決で通している。


安保法や共謀罪など、いろんな法律が「選挙で勝てば民意を得たり」みたいなことで強引に決めていた状況だったので、はっきりと物申す人が出てきたことを描きたいなと思ったんです。 


──藤木さんは神奈川県で一番古い自民党員なんだそうですね。 


自民党員だし、なにより権力者ですよね。


映画にそのシーンがあるのですが、新年会に行くと、衆議院議員も参議院議員も県会議員も市会議員も、藤木さんを前に壇上で1列になって深々とお辞儀をする。


1列でも収まりきらず、次から次へと挨拶にやってくる。


それだけ権力側にいるわけです。


そんな権力者が最高権力者に対して、反旗を翻す。


その時は官房長官でしたけど、これは本当に驚きでした。



 ──藤木さんと菅さんはどこかで手打ちをするだろう、という臆測も出ていました。


そんな危惧はありましたか? 


菅さんが総理に就任する前の2020年8月に、藤木さんに挨拶に行って、一緒に撮った写真が雑誌に出た。


これでカジノも進むだろうみたいな記事もあったんですが、後で聞いたら、カジノの話は何ひとつ出ていなかった。


一番ドキドキしながら撮っていたのは、小此木さん(菅内閣で国家公安委員長)が横浜市長選に出馬表明した時です。


からめ手というか、奇策というか。


主張を百八十度変え、カジノ反対を掲げて出てきたわけですから、すごい衝撃でした。 


藤木さんと小此木さんの関係は深い。菅さんとの全面対決も避けられます。多くの関係者が藤木さんは小此木さんを推すんじゃないかと言い、その可能性は十分あるなとは思ったのですが、藤木さんに聞くと「カジノ撤回が決して保障されているわけではない」と受け止めていた。最後までブレなかったですね。 


──なぜブレなかったのか? 


藤木さんの反対の理屈は明確かつ正論。


「横浜市民が決めることだ」とずっと言ってきたんですよね。住民投票を求める19万筆を超える署名の力の大きさを、彼は感じ取ったんだと思う。


住民投票の署名は、単に名前を書いてもらうだけじゃなく、住所と年齢も書き、印鑑を押す丁寧な作業です。それをコロナ禍で19万も集めてきたという力を、藤木さんは選挙をやってきたこれまでの経験からも実感していたと思うんですね。


勝てる確信はなかった、と最後に聞いたら言っていましたが、あの19万を前に、引き下がれなかったんだと思う。


■カジノ業者は「日本に新たな弊害は不要」 


──映画の大きな2つのテーマが「カジノ」と「民主主義」です。


カジノについては、横浜は誘致撤回となりましたが、大阪は国が正式に認定した。


映画に登場した、米国でカジノビジネスを仕事にしている日本人が「日本にカジノは必要ない」と断言していたのは、説得力がありました。 


彼は「日本支援」だと言って取材に応じてくれました。


日本をいい国にしたいから、と。カジノを仕事にしているわけですから、よく話してくれたと思います。確かに彼らは儲かる。運営側にはものすごく利益が出る。


一方で、彼はカジノで大負けした人たちがどういう状態になるのか、よく見ているんです。家をなくし財産をなくし、一家離散などの弊害が出ていることを知っている


カジノをしたければ、米国やマカオに行けばいい。日本に新たな弊害を生み出す必要はないでしょう」と言うのです。


目の前で政治が変わっていくのを学んだ 


──民主主義については、「19万筆」の力のすごさですよね。主人公は藤木さんですが、住民たちの頑張りも大きかった?


 ものすごく大きかったですね。カジノを何とか阻止したいと、初めて運動し、選挙もやって。そもそも住民投票条例の署名を集めるために、一軒一軒、訪ね歩いた。


映画で選挙ビラをポスティングしている場面があるのですが、夜8時ぐらいで夏だったけれどもう暗い。 


でも「まだ行きます」と隣の駅まで行ってポスティングを続けていた。何とかしたいという気持ちが人を動かす。そこに藤木さんという人が入ってくることで、さらに頑張ろうという気持ちになっていく。


そんな光景が目の前で展開され、こうやって政治は変わっていくんだ、と私自身が学びました。 


──ただ、それは藤木さんみたいな人がいたから政治を変えられたのでは? 

他でも起き得るでしょうか? 


他でも起きて欲しいですね。横浜市民のカジノ反対の気持ちが強かったことと、やはり藤木さんの存在は大きかったと思います。91歳なんですよ。それで、あれだけのエネルギーで、あれだけの言葉を使って市民たちに呼びかける。それを継続的にやった。 


自民党の人が自民党に対して立ち向かっていく、という勝負をかけたところが、みんなを動かす力につながったと思う。


他の地域であっても、同じようにリスクを取って動く人が出てくると、そこに力が乗り移って、次の力を生み出す。


藤木さんのような保守の人の中にも、いまの政治のあり方はおかしい、と思っている人はいるでしょうしね。


■人を巻き込んでいく力 ──保守の人たち、ですか? 


藤木さんを見ていて、なるほど、と思わせたのは、人を巻き込んでいく力。でも本来の保守ってそうですよね。考えに違いがあったとしても、何かの実現に向けて、人を巻き込んでいく。人を大事にするとか、地域を大事にするとか。


藤木さんが「レディアンツ」という野球チームをつくっていましたけど、お互いが協力し合いながら社会をつくっていこうよ、みたいなものが、古き良き保守を体現していると思いました。 


──そういう意味では、古き良き保守を思い出してくださいというメッセージでもあるわけですね。最近の自民党は本来の保守らしくない?


「分断」ってしなかったじゃないですか。さまざまな意見を聞こうとか、大事にしようとか、あったと思うんですよね。今はちょっと考え方が違うと敵みたいな。違うんだから攻撃するとか。意見が違ってもいい、議論しましょう、という藤木さん的なるものが、少し前の自民党にはありましたよね。


(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)


▽松原文枝(まつばら・ふみえ) 1966年、青森県生まれ。90年東京大学卒。金融機関を経て、91年テレビ朝日入社。92年政治部・経済部記者。2000年からの「ニュースステーション」や「報道ステーション」ディレクターを経て、同番組のチーフプロデューサー。15年に経済部長、19年から総合ビジネス局イベント事業部イベント戦略担当部長。報ステ特集「独ワイマール憲法の“教訓”」でギャラクシー賞テレビ部門大賞。【映画あらすじ】 2019年8月“ハマのドン”こと藤木幸夫が横浜港をめぐるカジノ阻止に向けて立ち上がった。御年91歳。地元政財界に顔が利き、歴代総理経験者や自民党幹部との人脈、田岡一雄・山口組3代目組長ともつながりがあり、隠然たる政治力を持つとされる保守の重鎮だ。 今の時代が、戦前の「ものを言えない空気」に似てきたと警鐘を鳴らし、カジノを推し進める政権中枢の時の最高権力者、菅首相と全面対決した。 決戦の場となったのは21年夏の横浜市長選。藤木が懸けたのは、住民投票を求める署名を法定数の3倍をも集めた市民の力だった。裏の権力者とされる藤木が、市民とカジノ反対の一点で手を結び、「カジノ誘致」の国策阻止を成し遂げた。