私には、介護職をしていた頃から忘れられない言葉がある。


福島弁の「おごご」である。


施設に入居されてた方が日に日に食事量が減り、なんとか食べて欲しくて毎日、栄養士と相談しアレコレおかずを出してもらったものの、一向に食は進むことがありませんでした。

かなり耳が遠くなっており、なまりもあったのでなかなか食べたい物が聞き出せずにいたある日、紙に食べたいものを書いて欲しいと頼むと、震えた力ない文字で「おごご」と書いてくれた。


でも、当時はその文字すら読めず、しきりに「おごご」と繰り返す言葉の意味を探った。


1ヶ月もしない内にその入居者は入院となり、末期のガンであることが分かった。


面会に行く度に「帰りて」、「帰りて」と繰り返していた言葉も2週間もするとその言葉すら聞くことが出来なくなった。


その間も「おごご」の意味は依然分からず。せっかく食べたいと言ってくれた一品すら理解出来ない自分に腹が立った。


間もなくして、入居者は退院することもなくそのまま召された。


お通夜の席で、各テーブルの上にてんこ盛りの「白菜の漬物」が並べられていた。


生前、書き残してくれた「おごご」という言葉について御家族にもお聞きしたのですがその時には分からず、でも、お通夜に見えた方が「おごご」とは、福島弁でお新香のことだと教えてくれたそうです。


入居者が食べたかったものは、高級な食べ物ではなく、田舎にいた時にいつも食卓に上がっていた「お新香」だったのだと知り、私達は泣きながらお新香を食べたのを今も忘れられません。


しょっぱくて、しょっぱくて…。


でも、コレが食べたかったんだ。そのことに早く気付けなかった自分の無知を責めながら食べたお新香の味と「おごご喰いてぇ」の言葉はこれから先も忘れられないと思います。