疾走(第9章) | 投財堂のドタバタ妄想録

投財堂のドタバタ妄想録

兜町という聖地へ
夢を求め 金を求め彷徨う・・・
市場放浪記、改め・・・・・ドタバタ妄想録。

第9章

(走る)
赤信号を渡りきった時
周りの視線が自分の後ろにあると思った。

だ、誰かが・・・追って来てるのか?

何で・・・

まさか・・・

しかし、確認する必要がある。

男はここで、初めて後ろを振り向いた。
恐る恐るといった感じで・・・振り向いた。

誰かが信号の向こう側で大声で叫んでるようだ。

しかしその誰かは、男が恐れていた人物ではない。
少し安心した男は、相手の様子を注意深く窺った。

その手には何かが握られている。

向こう側の男は、手に握った何かを振り回しながら
しきりにこちらへ、何かを訴えかけてるように見えた。

何だろう?

向こう側の男の視線は自分に向けられてるようにも思う。

そして、向こう側の男の手に握られたモノ・・

タブレットのようだ。

その瞬間、男は自分のリュックを確認した。

ああああ!!!

タブレットがない!!

あれがないと・・・あれがないと・・・

あの、向こう側の男が手に持ってるタブレット。

あれは・・もしかしたら・・
自分のものではあるまいか!?
間違いない。
あれは自分のタブレットだ。
いつ落としたのか?

まさか・・・あの時か?

いや違う。
あの時は、周りに注意していたし
そんなに激しくは動いてない。

だとすると・・・

あの女と接触した時か?

しかしそれなら、タブレットを持っているのは
あの時の女でなければならない。
なぜ、あの男が持っているのか・・?

いずれにしても、女にぶつかったのは迂闊だった。
いくら慌ててたとはいえ・・・マズかったな。

それを考えるのは後でいい。

今はあのタブレットを取り戻すことだけを考えろ。

あれがないと非常に困る。
何のためにここまでやって来たんだか判らなくなる。

手を振ってみる。
待っててくれるかも知れない。
信号が変ったらそっちへ行くから待ってて下さい~
そう叫んでみたが、その声が届いたかどうか判らない。

え?

声が届くどころか、相手の男は
手に持っているタブレットを地面に
叩きつけようとしているではないか!
やめてくれ~~

あっ!

その瞬間、向こう側の男と目が合った。

そして

え?
え?

どうして?
自分の目を疑った。

引き返そうとしている?

さらに確認するため
男は車道に一歩足を踏み出した。

男の前をトラックが
激しくクラクションを鳴らしながら猛スピードで通過する。

危ない!

(第10章へ続く)

→第10章


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