疾走(第8章) | 投財堂のドタバタ妄想録

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兜町という聖地へ
夢を求め 金を求め彷徨う・・・
市場放浪記、改め・・・・・ドタバタ妄想録。


第8章


(追う)
もしかしたら・・・あの女。
逃げてるんじゃないのか?

逃げてるとしたら誰から逃げてる?

え?

もしかしたら・・・?

男は立ち止まった。

自分を、ストーカーか何かと勘違いして・・

逃げてる?

じょ、冗談じゃない!
冗談じゃないぞ!

女は自分の前を歩いていた。
前といっても女との距離は結構ある。
その時、女の脇から急に誰かが現れ
女と接触したように見えた。
ただ、暗かったため実際接触したかどうかは判らない。

そして、何かが落ちた。
大きな音がしたから、何かが落ちたのは判る。
男が女のいた位置まで来た時
そこに携帯電話が落ちていたというワケだ。

携帯電話にしては落ちた音が大きすぎるとも思ったが
夜の事だ。
音が響き過ぎても不思議ではない。


携帯落としましたよ!

男は叫んだが、なぜか女は走り出している。
自分から逃げるように・・・

もう一度叫ぶ。

もしも~~し、携帯、携帯!

それでも振り返ることなく、走り去る女。

男は気付いた。

イヤホン?

音楽か何か聞いてるのだろう。
女はイヤホンをしていた。

そのイヤホンを外せ!

しかし、女がイヤホンを外す気配はない。

し、仕方ない。

男は、女を追い始めた。
女に携帯電話を渡す為に・・・・

その自分がストーカーと間違われてるかも知れない。
女が落とした携帯電話を渡そうとしてるだけなんだ・・・
それを・・・その自分を、ストーカーと勘違い?

男は立ち止まった。

もういい。

こんな馬鹿な話があるか!?

追うのを止めよう。

あの女の携帯だ。
無くなって困るのは自分じゃない。
あの女なのだ。

一応、拾得物として警察に届けよう。
それで自分の役目は終わりだ。終わりなのだ。

男の年齢は50代、これ以上走るには
歳を取りすぎていた。
ストーカーと勘違いされてまで
この携帯を渡してやる事もない。

男は、女を追う無意味さを悟った。

(第9章へ続く)

→第9章



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