今の40代から50代女性なら
知らない人の方が少ないのでは?
先日漫画を読みそうにない友人に知ってるか聞いたら、彼女でさえ「知ってるも何もリアルタイムで読んでたよ」という浸透ぶり
アメリカの美しい田舎にある教会孤児院で育った女の子キャンディが、苦労や悲しみを乗り越えながら
明るく逞しく生きていく話だが
この作品を語る時
出版業界や漫画編集者達プロによってタイトルにつけられるのが
少女漫画の金字塔
少女漫画史に燦然と輝く不朽の名作
の文字。
一度でも手に取った人なら異論なしかと思う。
大和和紀の「あさきゆめみし」や
池田理代子の「オルフェウスの窓」
くらもちふさこの「糸のきらめき」などの作品と共に。
舞台はアメリカミシガン片田舎の孤児院から
レイクウッド、ロンドン、シカゴと壮大なスケールで展開される。
登場人物一人一人のキャラクターが丁寧に描かれていて、まるで手を伸ばせばそこにいそうな
でも現実には、なかなか出会うことが難しい
魅力ある善き人達なのだ。
原作の児童文学者水木杏子さん(別名名木田恵子)と
漫画家いがらしゆみこさんが共同で連載スタートした時の二人の年齢は驚いたことに24歳と23歳
現代の半径5キロ以内で生きてる日本の若者からは
およそ生まれることのないスケールの大きさと
人間の深さをこの若さで表現できたとは・・・。
しかも当時は海外旅行が誰かれなしにという時代でなく、ネットもなかったのに、24歳の女性がよくこれだけ、しっかりした考証と情報収集で話を書けたなと思うのだ。
日本国内で専門職の人を直接取材できるのとはわけが違う。
水木さん、第一次大戦や英国名門校の寄宿舎生活
看護学校やイギリスの演劇界など、そのつど漫画だからといって、いいかげんな描写はしていない。
アードレー一族一つとっても
彼らの苗字や名前は話の設定通り上流に相応しいものにしているし、1970年代の日本でスコットランド士族に目をつけたこともすごい。
二人のコンビどちらか一人が欠けても生まれなかった物語
・・・
であったのに
今「キャンディ・キャンディ」本は悲しい裁判のせいで、新たに手に入らなくなっている。
今さらの事件だが、漫画家いがらしゆみこさんが突然
「キャンディ・キャンディ」は自分一人のものであるかのような迷走を始めたからだった。
関係者でなくとも唖然とする話ではないだろうか。
テレビ放映もされ、グッズも売り出されたので利益を独り占めしたくなったのか
とにかく読者にとっては、何故いがらしさんが突然
おかしな主張を始めたのか理解できなかった。
当然、最高裁での判決も水木杏子さん勝訴。
ファンの予想通りの結末となった。
いがらしゆみこさんに言いたかった。
美しいものは美しいままで置いておいてほしかった。
キャンディ、ポニー先生、レイン先生
アンソニー、ステア、アーチー
そしてアルバート(ウィリアム大おじさま)・・・
今から30年前、
再会した私は迷わず購入した。
ページを開くと、いがらしゆみこさんの最初の挨拶が載っている。
「私の少女漫画家としての初めての大ヒットだった
キャンディキャンディが愛蔵版になりました。」
「これは23歳から27歳までに描いた作品で
あの時リアルタイムで読んで下さった方達は
母になった人もたくさんいます。」
「キャンディキャンディの作品の中に散らばった数々の名場面は水木先生が原作で描いてくれた優しい言葉と私の絵から生まれた子供達です。」
ここまで言いながら、なぜ
その後いがらし先生は豹変してしまったのか。
一体何があったのか。
いがらしさん自ら認めておられるように
水木杏子さんの原作なくして
初めての大ヒットはなかったのに。
幸い私は愛蔵版を持ってるので
今でも時々キャンディに会えるけれど
そして、事件後水木杏子さんが名木田恵子名で出された小説も持ってるけど、今読み返して懐かしむことができなくなってる人も多いようなのだ。
この小説では、おそらく結婚したであろう(ぼかされている)キャンディが、ともに暮らす「あの人」も出てくる。
それが誰なのか読者にとっては永遠の謎だが
個人的には願わくばアルバートであってほしい。
11歳離れてるけど、キャンディにとって初恋の「丘の上の王子さま」なのだから。
この小説は児童文学者の著書らしく素敵な内容だった。
が、やはりキャンディは、いがらしさんの描く絵あってこそ息をする。
しつこいけど、二人の力が結集して初めて生まれるものであることをあらためて知った。
愛蔵版のあとがきは、原作者 水木杏子さんの言葉で締め括られている。
「オヨメにいく時、全巻そろえてキャンディを持っていったんですよ。
そういわれて、なんとも嬉しい気持ちになりました。
今まで、何度か聞いたことのあるエピソードですが
その時は特に身にしみました。」
私も結婚するなら同じことをしただろうし
もし娘がいたら、必ず読ませたい作品だった。
20代前半といえば世間でいう大学新卒
二人の若き才能と感性が結びついて生まれた
漫画の世界にとどまらず文学の名作ともいえる作品を、どうか消さないでと、いがらし先生にお願いしたい。
それほど愛と勇気と優しさに溢れた
誰もがいう本当の不朽の名作なのだから。