(中学生07 手を彫る)

 一番最初に彫るのは、手です。細かいので、他の所を彫って慣れてから彫りたいという人もいるかも知れません。でも、手を最初に彫るのには理由があります。

 彫る時には、注意することはたくさんあります。1つ目は、深さです。版木は、ベニヤの上にシナの薄い板を貼り合わせたシナ合板を使うことが多いのですが、中のベニヤまで彫り込まないように浅く彫ります。浅く彫るには、丸刀・三角等刀・平刀などを寝かせて持ち、浅く刀を入れて彫り上げていく感覚が大切です。

2つ目は、木の繊維への対応です。浅く彫り上げようとすると、刀を止められず輪郭線を踏み越えて彫り進んでしまうことがあります。これを防止するには、切り出しで版木の繊維を輪郭線に沿って切断しておくことが必要です。切り出しは、刃を自分のほうに向け、切っ先を板に垂直に差し込み、ゆっくり引いていきます。カッターナイフを使い慣れている人は、切り出しの刃の場所が違うことに気づかず、切り出しの背中の方でひっかいているだけになっていることがあります。切り出しで版木の繊維がしっかりと切断できていると、丸刀などがそこまで進むと、こくんっという感じで止まります。もちろん、力を入れすぎると突き進んでしまいますが。

3つ目は、表現上、刀の種類・彫り跡の長さや方向の変化・粗密などを考えることです。これらに変化を付けることで、質感や明るさを表現していきます。同じように白黒で表現をする切り絵と大きく違う点は、この彫り跡にあります。版画では、ほとんど白く彫ってあっても、印刷すると彫った時の刀の動きがわずかに刷り取れます。これが、すぐれた表現を生み出します。

この3つの大切なことを全て含み、彫り跡が短くてすむことで初心者でもできるということで、手がお勧めです。手を彫ってみると、切り出しの必要性、切り出しに向かって「光」を彫ること、指の丸みを彫ることなど、全て試せます。

分かりにくい人向けに手の絵を作りました。水色の線が入っているところは、切り出しによる繊維の切断をする箇所です。赤い線の方向に丸刀を動かしながら彫っていきます。指の3分の2ぐらいを彫れば、残りの3分の1は影と輪郭線になります。関節のしわを残したい人は、彫り跡に間をあけます。また、関節で指が曲がっているときは、丸く彫る方向もかわります。指から手の甲に進むと、丸さの大きさも変わります。断面図をイメージすると分かるかも知れません。赤い「×」が付いているところには、切り出しはしません。光から影に移っていくところですので、彫り跡も長短ばらばらに自然に変化する様子を彫ります。ここに切り出しをいれると痣ができているように見えてしまいます。

実際にこの方法で彫った手の様子です。指は、彫り跡が短いので割と簡単なのです。そして、白いところを彫るってこういうことなんだと気づく人が多いです。

 最後に、安全のために、版木の下に滑り止めシートを敷くことをお勧めします。カーペットなどの下に敷く薄いもので大丈夫です。刀の前方に不用意に手を出して板を押さえようとすると、手を切る原因になります。

 

 

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