読書感想文124 山本文緒 プラナリア | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

7月がやってきましたね。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

今年が半分終わりましたなー。ほんとなら昨日噛み締めたかったところなんですが、昨日は実家に帰っていて噛み締めそこないました。毎年、この「今年が半分終わった」……をしみじみするのが習慣なんですね。うん、この上半期はとにかく本を読んだなあ。

 

小説は2本しか書き上げてない。長編と短編。今書いてる長編がちょうど半分ぐらいまで来ていますが、生産スピード遅いね。プロだってもっと書くでしょうに。7月中には長編を書きあげて、次の話の構想も練り終えたい。うむ。頑張るぞ。

 

さて、本を読んだお話。山本文緒さんの「プラナリア」を読みましたよ。直木賞受賞作。私、この山本文緒さんという方、名前は知っていましたが知ってるだけで特に印象に残るエピソードが何もなかったんですね。本屋で見かけたとか、ネットで書評を見たとかいうこともなくて、まったくの予備知識なく読み始めました。しかーししかし、なかなかにすごい人だった。山本さん、多分すごい頭がいい人なんじゃないかなあ。

 

 

 

この「プラナリア」は短編集で、収録作が

 

プラナリア

ネイキッド

どこかではないここ

囚われ人のジレンマ

あいあるあした

 

となっております。

 

どの作品も、主人公がちょっとヘンなんですね。ヘン……というと語弊があるんですが、性格的に難がある人ばかりです。そういう難のある人が、自分の難がある性格ゆえに苦しんでいる様を淡々と描いています。「プラナリア」の主人公の女の子は、乳がんを克服したにも関わらず、続けられるホルモン療法で肉体的に疲弊しています。だから会う人会う人に思わず言っちゃうんですね、「私、乳がんだからさ」

 

言われた方はぎょっとしますわね。でも彼女は自分が「もう大丈夫だ」と言われることに耐えられません。だってまだこんなにしんどいのに。まだ若い彼女の胸からは乳首がなくなり、大きな傷も身体に残っているのに。

 

周りの善人を自分の苦悩で振り回しちゃう主人公。彼女を突き放すことは誰にもできません。結局自ら周囲に壁を作り逃げ出してしまうのだけれど、そのラストまでの配分が絶妙。主人公の混乱と周囲の困惑が、うまーい分量で描かれているんです。だからこちらも「そりゃこの子が悪いよ」とも「周囲の人間に理解がないねえ」とも思うことができない。なんとも上手な書きっぷりなのですね。

 

 

 

人情ものであったにもかかわらず、面白かったのが「あいあるあした」。一流企業を脱サラして居酒屋を開いた36歳の真島君が主人公。性格は自己中心的で愛想のない大将です。彼の店には「手相を見てあげることで飲み代を相手に払わせる」ほぼホームレスの無職女、すみ江が入り浸っています。

 

真島君は公園で寝泊まりしているすみ江を心配し、家に泊めてあげます。強引に真島君に襲い掛かって家に棲みつくすみ江。彼女はそうやって色んな男に寄生して無職を貫いていたんですね。占いではお金を取らず、飲み屋で同席になるおっちゃんらに服やらなんやら買ってもらって生きているんです。性格は天真爛漫ですが、まあこの子も大分おかしな子よね。けれど離婚して娘と離れ離れになった寂しさを抱えている真島君はだんだんすみ江の虜になってきちゃう。すみ江を束縛しようとしますが、生来の風来坊であるすみ江はそんな真島君を嫌って姿を消してしまいます。

 

たまに面会することができていた娘も、元嫁の結婚で海外に行っちゃうし。何だかやけっぱちの真島君ですが、いなくなったすみ江に再会し、彼女が店の常連客(お金も前歯もないお爺さん)と同居していることを知ります。そこは別の常連客が持っている大きな家だったんですね。「寂しいなら真島君もおいでよ。一緒に住もうよ」その一言で、真島君は自分の都合ですみ江を「かわいそうな女」にしていたのだと悟る。本当はすみ江も、もちろん自分もかわいそうな人間なんかじゃないんだ。ちょっと変わった感性を持つ二人は、これからきっと人々の中でうまくやっていくのでしょう。

 

 

 

 

とにかくね、直木賞というより芥川賞っぽい短編集で、答えの半歩前でお話が終わります。この「あいあるあした」も私の解釈はこうですが、全然わかりやすく登場人物の心情は描かれていないんですね。他の人が読んだら違う解釈になるかも。でも、匙加減がすごく上手だから、「意味分かんない」には絶対ならないし、かと言ってすべてを言いきって読後の余韻を消すわけでもない。この山本文緒さんという人は、理系なんでしょうか。作家さんなんだから当然文系なんでしょうが、この絶妙な匙加減は理系脳なんじゃないかと思ってしまう。もしくは棋士みたいな脳みそしてるんじゃないかなあ。「ああなったらこうなる」を立体的に考えられるような。私にはとても難しいテクニックですが、真似してみたい。

 

大人が読む作品、という感じだった山本文緒さん。面白かったです。この方は他の作品も追いましょう。私もこんな理知的なん書きたいわ。

 

というわけで、7月になったので3週間後には夏休みがやってきますよ!そこまでに長編を書きあげよう!頑張るぞ頑張るぞ。ということで。

 

またねー!