読書感想文122 本谷由紀子 嵐のピクニック | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

変な人がいた―!

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

女性作家の色々を読んでみよう、第一弾は本谷由紀子さんです。

 

第一弾って……。どうやらシリーズ化するようですね。早速知りもしない人に手を出してみました。2016年に「異類婚礼譚」という作品で芥川賞を受賞されている方ですが、私は不勉強なもので全然存じ上げていませんでした。1979年生まれ。いやん、同い年やん。

 

元から劇団を主宰して演劇をされていた方のようで、戯曲関係の賞をいくつか受賞されて、その後に小説を書かれて色々と著名な賞を受賞されています。この「嵐のピクニック」は大江健三郎受賞作。大江健三郎よ?ノーベル賞。だから私、重厚な泣ける話でも読めるんじゃないかと思って手にしてみたんですよ。そう思うでしょ?

 

ところがどっこい、この人、さすが演劇をされていた方ですね。短編集なのですが、どれもこれも捻りが利いてて面白い!ほぼ、コメディなんじゃないかなー。もちろん考えさせられる作品やぞっとするようなお話も収録されていましたが、なんか私は笑う場面の方が多かった。しかもその笑いが「……。ふっ」みたいな笑なのよね。げらげらなんかは笑わないんだけど、「なんか、今ヘンなことが起こったぞ」みたいな。

 

「このヘンな感じ、昔なんか感じたことあるぞ。なんだっけ。絶対知ってるんだよ。あれ、なんだったっけ……」みたいなね。その共感するラインがすごいヘンなとこに設定されてるのよ。だから私、少々琴線に触れてしまった。これ、意味が分かんない人には全然謎な世界だと思うんですけど。

 

詳しい話は後程。収録作が

 

アウトサイド

私は名前で呼んでる

パプリカ次郎

人間袋とじ

悲しみのウエイトトレーニー

マゴッチギャオの夜、いつも通り

亡霊病

タイフーン

Q&A

彼女たち

How to burden the girl 

ダウンズ&アップス

いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか

 

となっております。

 

 

 

まずインパクト大なのが「パプリカ次郎」。とある国の貧しい市場で働く少年パプリカ次郎。まず「パプリカ次郎」てなんやねん。八百屋の孫やからパプリカはまだわかるとしても、なぜ「次郎」。特に兄ちゃんがいるわけでもないのにこのネーミングセンス。

 

パプリカ次郎が働く市場では、不定期にギャング団に追われたアジア人の男と白人女が巻き起こす銃撃戦に巻き込まれます。屋台めちゃくちゃ。市場で働く人々は流れ弾で死んじゃったりします。でもみんな「しょうがないな」とか思ってあきらめてるんですね。それに憤るパプリカ次郎。

 

やがて大人になったパプリカ次郎は自分の屋台を持ち、壊れないよう天幕を丈夫な布にして商売をしていました。するとある日ビルの上空から屋台に降ってくる例のアジア人。ぼいーんと弾けてバウンドしたかと思うと結局屋台を壊して走り去ります。……なんやねんもう。次郎はこのちょこちょこ起こる破壊劇の真相を探ろうとしますが……。

 

……うん、もういかんね。それ、ジャッキーチェン辺りがロケしよるよね。しまいには駆け抜けるジャッキーを見かける度に、オーバーアクションをすることを心得始めるパプリカ次郎。なんだこれ!めちゃくちゃな世界観がほんとに舞台の一幕のようです。

 

 

 

あと本気で笑ったのが「Q&A」。女性のカリスマとして女性雑誌のご意見番を長年務めてきたおばあさんが、引退を胸に最後のインタビューに挑みます。これが、風刺が効いてて笑っちゃう。

 

今まで何十年も女性の悩みを聞いてきましたが、結局女の悩みなんて「好きな人から連絡がこない」「浮気されている」「セックスしてもらえない」「彼氏がクソ」のうちのどれかに分類されます――だって。その後の読者のお悩み相談コーナーも面白かったあ!

 

Q暴力を振るう彼氏とどうしても別れられません

 

A決闘を申し込みましょう

 

そ……そうか!せやな!暴力には暴力や!これは目からウロコ!こんな調子で面白かった短編です。

 

 

 

あと最後の「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」もヘンだった。高級なセレクトショップで、3時間も試着室から出てこない客。店員にあれこれ持ってこさせ倉庫の服を全部着てもお気に召さない。この中に入ってるのは一体何なのか。しまいには一晩粘る謎の客に、店員さんはついに試着室にロープをつけて往来を引き回し始めます。この先に私の気に入りの店があるんです!こうなったら意地でもお気に入りの一着を見つけましょう!私は必ずお客様に喜んでいただける服を見つけますかーら……!

 

……あほくさ笑 うすた京介のマンガみたいやん。この本谷さんて方は面白い人ですねー。もちろんおかしい話ばっかりではなかったんですが。「マゴッチギャオの夜、いつも通り」とかちょっとぞっとさせられたし。「How to burden the girl 」とかめっちゃぎょっとしたし。

 

いやー、この人面白い。同い年ということもありますが、多分同じクラスだったら仲良くなってたタイプの人ですね。笑いのツボが一緒。ビビるツボも嫌な気持ちになる基準もたぶん似てる。面白い人を発見してしまいました。

 

その他の著作も読みましょう!あ、もうすぐ明日。夫がまだ帰ってこーん!私はもう眠いのですが。

 

もうちょっと起きて待ってましょうか。では、おやすみなさいー!