うんうん、お勉強させていただきました。
こんばんは、渋谷です。
まだこのシリーズ読んでるよ。だって楽しいのだもの。その上5冊またこのシリーズ借りてきた。当分ミステリーの短編で生きていくことになりそうです。
今回も面白かったミステリー傑作選。今回は「Question 謎解きの最高峰」です。収録作家さんが、
三上延
石持浅海
高井忍
大門剛明
深水黎一郎
近藤史恵
長江俊和
となっております。
三上延さんといえば「ビブリア古書堂の事件手帖」だそうで。
剛力ちゃんですね。私は本もドラマも見てません。なかなかキャラの立った栞子さんという美人店主が営む「ビブリア古書堂」に持ち込まれる本にまつわる日常ミステリー、という感じの作品のようです。栞子さんというキャラは面白いなあと思いました。真面目で本一筋でちょっと頑なな感じのする人ですね。足が悪いようで杖をついています。なんともドラマを生みだしそうなキャラだ。これは人気が出るのもわかります。
でも、私は初「栞子さん」だったので、ちょっとまどろっこしさがあった。これがすごく勉強になった部分なんだけど。
短編って、つかみでぐっと読者の目を引き付けないとかなり退屈な展開になるのね。つかみって言うか、「変な設定」を目の前にばーん!と叩きつけないとインパクトがないんだ。この栞子さんの短編は、既存の読者に向けて書かれているからか、のんびりしたオープニングでした。もちろんこの作品はそれでいいんでしょうが。
新参者の私にはあまり引き付けられるものがなかった。一発勝負で短編を読ませようと思ったらこうじゃいかんのだろうな。原稿用紙なら5枚以内ぐらいで引っ掛かりを作らないと盛り上がらない。
私なんかは「絶対ここに載ってる短編は全部面白いはずだから読み飛ばさない」と決めて読んでるから最後まで読むけど、「買ったけど2ページでつまらんと思ったからこの本捨てる」なんて言い出すうちの夫なら間違いなく読まない。
その点でものすごく引っかかったのは長江俊和さんの「原罪SHOW」。こっれっは面白かった!
まず長江俊和さんという方は元テレビマンなんだそうです。だからこそのテーマでそこが良かったっていうのもあるんだけど、プロローグから引き付けられた。
どうやら報道ディレクターらしき女性が、「最高のスクープ」を手にしたらしいのです。それが車内灯を消されたマイクロバスから覗き見ている光景らしい。描写からおぞましい光景なのだと分かります。しかも主人公はそれを盗撮している。あああ、なんだそれ!ビビるオープニングです。
読み進めるとそれが「人の死を見ることのできるツアー」の一幕なのだと分かる。なんやの!なんやのその扇情的なツアーは!
ここでもう目を離すことは出来なくなってしまいます。ほんとにそのツアーに参加しちゃう主人公。そして目の前で殺人が起こる。金属バットでぶん殴られて、半死半生でガソリンかけられて焼かれてしまう被害者。焼かれながら仁王立ちで、なぜか主人公を見据えながら死んでいきます。
この惨状を目にして、主人公にはどんなサスペンスが降りかかるんだろう、と思いますよね?でも主人公は無事に帰宅し、隠し撮りした映像をテレビ局の上司に見せます。昨夜の惨状も現実に起こったことで、きちんと事件として報道されていました。
そこで言われるのが、「どうして人が死ぬタイミングを、事前に知ることが出来るのか調べろ。そしてこのツアーの主催者の、もっと詳細な情報を手に入れろ。でないとトップニュースとして扱うことはできない」
よっしゃ分かったとばかりに、主催者に取材の申込みをする主人公。ハラハラドキドキ。ここで章が切り替わります。目線は主催者のもとに向かう「何者か」。上手いのはここなのよ。この「何者か」が、主人公ではないのではないかというヒントがいくつかばらまかれているのね。例えば「客引きに声をかけられた」とか。
主人公は女性ですから、客引きに声をかけられるはずがありません。そして主催者の事務所で単独取材を敢行する「何者か」。彼は核心をつきすぎ金属バットでぶん殴られ意識を失います。そして気付けば軽トラの荷台から引き摺り下ろされ、また殴打されガソリンをかけられている。
「何者か」は、主人公である女性ディレクターのライバルとも言える他局の男性ディレクターでした。火をつけられ苦しんでいるところに目に入ったのはマイクロバスの中の主人公。どんな気持ちでライバルを見据えながら死んでいったのか。ここで読者は時間を巻き戻され、主人公と共に見た、あのエグい殺人現場を再び見せつけられることになるのです。
結局、このツアーの主催者は「死んだものとしてこの世から消されたい人」を合法的に殺す手伝いをしていたのですね。借金から逃れたいとか。指名手配犯なんかにも良さそうですねえ。
別の人を殺し炭化させて周囲に持ち物をばらまく。それで人がひとり死んだことになり、見世物として大金をせしめることもできる。それが「殺人ショー」の真相だったのです。
にしても、後半の描写はすごかった。読者に目くらましをかけつつ、置いてきぼりにもしない。後出しジャンケンの不快感ゼロ。上手な方ですねえ。楽しいエンディングじゃありませんでしたが、膝を打ったラストでした。
面白かった。「引っ掛かりはすぐに。回収は丁寧に」だね。学びました。脳みそのシワが1本増えた気がする。
というわけで、次もこのシリーズ。ミステリーの短編研究。もちろん娯楽でもある。楽しい。わくわくします。
ではまたー!