【登記攻略メモ 002】抵当権の債務者の相続
抵当権の債務者につき相続が開始した場合,どのような登記手続となるか。
この点,相続人全員を債務者とする,相続による抵当権変更の登記を申請することになります。
では,当該抵当権変更の登記をする前に,相続人のうちの1人が相続債務を引受けその旨の登記をすることができるか。
答えは,『できる。』です。
では,実体上,どのような法律構成をとるべきか。
この点,次の2つの方法が考えられます。
①相続債務についての遺産分割
②債務引受契約
①について
相続債務を1人の相続人が引き受ける旨の遺産分割が成立する必要があります。ただし,債権者の同意が必要となります。ここがポイントです。
よって,債権者の同意を得て,相続債務を1人の相続人が引き受ける旨の遺産分割が成立すれば,直接,その相続人のみを債務者とする,相続を原因とする抵当権変更の登記をすることができるのです(昭33.5.10民甲964)。遺産分割の効果として,相続開始時にさかのぼって効力が生じるからです。
①の派生論点
相続人全員を債務者とする,相続を原因とする抵当権変更の登記がされた後,1人の相続人が相続債務を引き受ける旨の遺産分割が成立した場合はどうか。この点,遺産分割を原因とする抵当権更正の登記をするという文献があります。ですが,所有権の場合には移転の登記となることから考えて,遺産分割による変更の登記でもよいのではという意見もあります。この点については,実務上どのような扱いとなっているのか勉強不足で分かりません。今後の課題とさせてください。
②について
では,遺産分割によらず,相続債務を引き受ける,債務引受け契約を締結した場合はどうか。この点,相続債務であろうと債務であるので,債務引受をすることは当然に可能です。ですが,登記手続が異なってきます。この場合は,相続人全員が債務を承継した後に,債務引受け契約をしているのですから,この権利変動の過程を公示する必要があります。つまり,この場合,相続人全員を債務者とする,相続を原因とする抵当権変更の登記をし,その後に,何某の債務引受を原因とする抵当権変更の登記をすることになります。
ここで,債務が遺産分割の対象となるかについてみてみます。記述対策とはあまり関係のないところですが,みていきたいと思います。
《債務の遺産分割について》
相続債務が遺産分割の対象となるか。この点,対象とはならないと言われています。それは,債務の分割を認めるとすると,その実質は債務引受であるといえるからです,つまり,X及びYが相続した債務について,遺産分割により債務を引き受けてXのみが債務者となるとすれば,Yが相続した債務については,Xへの移転であると解され,これは債務引受と同様であることになります。そして,この債務引受は,債権者の承諾が必要であるところ,遺産分割については,債権者の参加は要件とされていません。このようなことから,債務は遺産分割になじまないものと考えられるからです。しかし,これは,債権者の保護を重視して,債務が遺産分割の対象とならないとしているのであり,債権者の同意があるのであれば,債務の遺産分割を否定する必要はないことになります。このように解すれば,債権者の同意を条件に債務の遺産分割も有効であると解することができます。登記実務上も,債権者の同意のもと,債務の遺産分割が成立した場合,直接,債務を引き受けた相続人を債務者とする,相続を原因とする変更登記をすることができるとしています(昭33.5.10民甲964。
《記述攻略メモ》
□ 抵当権の債務者について相続があった場合において,相続を原因とする抵当権変更の登記前に,債権者の同意を得て,1人の相続人が債務を引き受ける旨の遺産分割が成立したときは,直接,その相続人を債務者とする,相続を原因とする抵当権変更の登記を申請することができる。
□ 上記のポイントは,①債権者の同意が必要という点。②1件の登記で済むという点
□ 抵当権の債務者について相続があった場合において,債務者の1人が,相続債務を引き受ける旨の債務引受け契約がされた場合は,相続人全員を債務者とする,相続を原因とする抵当権変更の登記をし,その後に,何某の債務引受を原因とする抵当権変更の登記をする。
□ 上記のポイントは,2件の登記が必要となる点