獄中手記
元治元年四月二十三日 讀書五十葉餘
因中作
嘗無名利動天心 嘗って天心に動く名利(めいり)無し
面折廷爭取禍深 面折廷爭(めんせつていそう)取禍深し
防意如城口如甕 防意は城口の如く、甕の如くあらんと
片言眞是我良箴 片言(へんげん)の眞(まこと)是れ我良箴
名利(めいり・みょうり)=名誉と利益
面折廷爭(めんせつていそう)=大勢の面前で君主の過ちを諌め争うこと
防意如城(成語)=「谓遏止私欲,如守城防敌」
甕=かめ
箴=はり、いましめ
【東郭解譯】
天の心というものは、名誉欲や利益欲で動くものではありません、
面折廷爭しても、禍は深いばかりであっ。防意は城口や甕のように
強くあらねばならない。片言(へんげん)の中の真理は、私に
とってよい薬である。晋作さんの言わんとすることが、勉強不足で
よく伝えられません。ただ、君命の来島又兵衛説得に失敗し、
脱藩した事を前提として考えると、敬親公に対して言っている
ようでもあります。面折廷爭は、朝廷に用いられてもよく、8月18日の
政変で京都を追い出された長州藩は、名誉回復の為必死で活動して
いました。晋作さんの真意もその辺にあったのですが、京都で
桂小五郎に説得され戻って来ました。私としては、後者の方が
面白いと思いますが、皆さんはどう思われますか?

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