資料館に季節の展示品として、節句人形がお目見えしました。展示された人形は昭和10年(1935年)頃につくられた人形です。

 





 人形の主人公は、室町時代の終わりから戦国時代初めにかけて活躍した武将で、代表的な功績として江戸城の築城で知られていた太田道灌(おおたどうかん)。

 

 お題は、道灌にまつわる一話「山吹の花一枝」です。

 

 

 ある日、道灌が部下と狩りに出かけたところ、突然の雨に見舞われ農家で蓑(みの)の借用を申し出た。 応対に出た若い娘はうつむいたまま、山吹の一枝を差し出すのみ。

 

 事情が分からない道灌は

「自分は山吹を所望したのではない。蓑を借りたいのだ」と声を荒げるが、娘は押し黙るのみ。

 

 しびれを切らした道灌はずぶ濡れになって城に帰り、古老にその話をした。

 

 すると、古老は

「それは平安時代の古歌に“七重八重花は咲けども山吹の実の一つだに無きぞ悲しき”という歌があり『蓑』と『実の』を懸けています。

貧しい家で蓑一つも無いことを山吹に例えたのです。

 殿はそんなことも分からなかったのですか」

と言われた。

 

 道灌は自らの不明を恥じ、その後歌道に精進したという話である。

 これは戦前の教科書に載っており、年配者には知られた話である。

 実話かどうか不明だが、江戸中期の儒学者・湯浅常山が書いた「常山紀談」に載っており、庶民は好んでこの話を講談や落語で取り上げました。