齧られた夕闇は

足音をたてて過ぎ去ろうとする


しかしそんなお前を

あの小さな子供は許してはくれない


いつの時代のものかもわからぬ

鉄の塊についたレンズを通して

お前を逃がさぬよう

団地の階段を駆け上がる


さあ


もうお前はあと少しで

夜の向こうへと逃げられる


そう思ったかい


まだ少年は駆け上がっている


お前がいてくれることを


お前が振り返ってくれることを


信じきって駆け上がっているんだよ


あの茶トラの野良猫は

お前になんかもう興味もない

齧ったことすら忘れてしまった


まだ少年は駆け上がっている