https://research-er.jp/articles/view/130519



発表のポイント

  •  コロナ禍で初めてワクチン反対派になった人の特徴を分析し、陰謀論やスピリチュアリティに傾倒している人がワクチン反対派になりやすく、さらに参政党への支持を高めた可能性を示した。
  •  ワクチン反対派などの特徴を分析した研究は多く存在するが、本研究ではどのようにワクチン反対派に転じるに至ったかを時系列的な分析に基づいて明らかにし、さらにその政治的含意も示した。
  •  公衆衛生に対する脅威となりうる反ワクチン的態度の拡散を食い止めるための手がかりが得られ、将来のパンデミックに対して重要な教訓を得た。

 


発表概要

東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授と、同大学未来ビジョン研究センターの榊剛史客員研究員、早稲田大学小林哲郎教授、筑波大学吉田光男准教授らによる研究グループは、コロナ禍におけるワクチンに関する大量のツイートを機械学習を用いて分析し、新たにワクチン反対派になる人の特徴を明らかにした。コロナ禍以前からワクチン反対派であった人々は政治への関心が高くリベラル政党とのつながりが強いのに対して、コロナ禍で初めてワクチン反対派になった人々は政治への関心は薄い一方で、陰謀論やスピリチュアリティ、自然派食品や代替医療への関心が強く、これらのトピックへの関心がワクチン反対派になるきっかけとなっていることを示した。さらに、新規にワクチン反対派になった人々は既存政党との結びつきが弱い一方、反ワクチンを掲げた参政党との結びつきを急速に強め、このことが2022年参院選における参政党の議席獲得につながった可能性についても明らかにした。既存研究はワクチン反対派の特徴を記述する研究が主流であったが、本研究はワクチン反対派になるきっかけを明らかにした点に新規性がある。さらに、将来のパンデミック再来に備えて、陰謀論やスピリチュアリティに対して警戒をすることが反ワクチン的態度の拡散防止に有効であるという示唆を得た点で大きな社会的意義がある。


研究の背景

新型コロナウイルスによるパンデミック下では、反ワクチン的態度が集団免疫の獲得を妨げ、公衆衛生に対する脅威になる。そこで反ワクチン的態度を持つ人々の特徴を記述する研究が蓄積されつつあるが、なぜ人がワクチン反対派になるのかという「きっかけ」に関する知見は不足していた。さらに、ワクチン反対派は特定の政党や政治家と結びつくことで政治的なインパクトを持ちつつあり、日本においても反ワクチン的態度の拡散がどのような政治的含意を持つのかを明らかにする必要があった。そこで本研究は、コロナ禍におけるワクチンに関する大量のツイートを分析することで、反ワクチン的態度を持つことになる「きっかけ」を明らかにし、さらにパンデミック下で新たにワクチン反対派になった人々が特定の政党を支持する傾向を強めたことで、ワクチン反対派が政治的に代表されるようになるプロセスについても明らかにした。


研究の内容

本研究はまず、2021年1月から12月までに収集された「ワクチン」を含む約1億件のツイートを収集し、機械学習を用いて「ワクチン賛成ツイート」「ワクチン政策批判ツイート」「ワクチン反対ツイート」の3クラスタを抽出した。次に、「ワクチン反対ツイート」を多くつぶやいたりリツイートしているアカウントを特定し、「ワクチン反対ツイート拡散アカウント」として定義した。そして、「ワクチン反対ツイート拡散アカウント」を多くフォローしているユーザを「ワクチン反対派」として定義した。

分析は主に3つの視点から行われた。第1に、ワクチン賛成派と反対派を比較し、反対派の特徴を明らかにした。第2に、コロナ禍以前から反対派であったユーザとコロナ禍以降に新規に反対派になったユーザを比較し、新規に反ワクチン的態度を持つようになったユーザの特徴からワクチン反対派になる「きっかけ」を明らかにした。第3に、政党やその党首のアカウントのフォロー率を分析することで、新規にワクチン反対派になったユーザの政治的特徴を明らかにした。


第1の分析からは、ワクチン反対派は賛成派と比べて政治的関心が強いことが明らかになった。右派的な傾向を見せるユーザもいるが、リベラルな傾向を見せるユーザの方が多数派を占める。一方、ワクチン賛成派はワクチンに関するツイートやリツイートはしているものの、主にゲームやアニメなど私的な趣味への関心が強く、政治への関心は弱かった



第2の分析からは、コロナ禍以前からワクチン反対派であったユーザは特に政治的関心が強くリベラルな傾向を見せるのに対して、コロナ禍以降にワクチン反対派になったユーザは政治的な傾向が弱いことが明らかになった。一方、コロナ禍以降にワクチン反対派になったユーザは陰謀論やスピリチュアリティに関する単語がツイッターのプロフィール文に頻繁に表れることが明らかになった。例としては「三浦春馬」「集団ストーキング」「テクノロジー犯罪」「波動」「宇宙」「スピリチュアル」「柔軟剤」などが挙げられる。したがって、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々は陰謀論やスピリチュアリティに対する関心がきっかけとなって反ワクチン的態度を持つようになった可能性が示唆される。

第3の分析からは、コロナ禍以前からワクチン反対派であったユーザは立憲民主党やれいわ新選組、日本共産党のアカウントをフォローする率が高いのに対して、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々はこうした既存の政党をフォローする傾向が弱いことがわかった。しかし、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々は2022年3月から9月にかけて参政党のアカウントをフォローする率が急上昇しており、陰謀論やスピリチュアリティをきっかけとして反ワクチン的態度を持ち、さらに反ワクチンを掲げる参政党への支持を高めた可能性が示唆された。

これらの結果は、コロナ禍における新たなワクチン反対派は政治的な傾向をベースにしたものではなく、陰謀論やスピリチュアリティをきっかけとしたものであることを示している。しかし、いったん反ワクチン的態度を持つようになると、反ワクチンを掲げる参政党への支持を強め、このことが2022年参院選における参政党の議席獲得に貢献した可能性がある。実際、参政党は国際ユダヤ資本などの陰謀論、「風の時代」などのスピリチュアリティ関連語を選挙キャンペーン中に用いており、こうしたトピックに関心を持つ人々に支持を訴えていた。このことは、陰謀論やスピリチュアリティをきっかけにワクチン反対派が国政において代表されるに至るプロセスを示している。


今後の展望

陰謀論やスピリチュアリティそのものは直接的に政治的含意を持たない場合もあるが、これらがゲートウェイとなって反ワクチン的態度を持つようになる人がいることが明らかになった。将来的なパンデミックにおける公衆衛生の維持のためには、陰謀論やスピリチュアリティが反ワクチン的態度の拡散につながらないように、その連関を断つような方法論が求められるだろう。また、本研究はツイートの観察的研究であり、因果効果について厳密な検証はできていない。この点については実験や社会調査を組み合わせた分析が必要となる。


発表者

東京大学

大学院工学系研究科

鳥海 不二夫 教授

 

未来ビジョン研究センター

榊 剛史 客員研究員

 

早稲田大学政治経済学術院

小林 哲郎 教授

 

筑波大学ビジネスサイエンス系

吉田 光男 准教授



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