【嗚呼無情、これが虫の知らせか!】
(一)
戦隊統合爆撃の前日は出動予定もなく、確か休みであったと記憶しております。田子軍曹が私の部屋に来て、「藤田曹長、麻雀をやりませんか。」と誘うのです。「おい、田子よ。メンバーは揃っているのか。」と言うと、「揃っていますから、今連れて参ります。」と言い、私の部屋には田子軍曹、飯田軍曹と整備係の辻軍曹の顔ぶれが集まりました。早速開始しようということで麻雀を始めたのであります。不思議なことに、この日の田子軍曹は非常に憑いており、上がる度に満貫、満貫の連続でした。そこで私は、「おい、田子よ。今日の田子はどうかしているなあ。」と言うと、「いやいや、曹長。腕の差ですよ。」と軽く冗談を飛ばしておりました。いよいよ終局の北に入りましたが、相変わらず田子軍曹の調子はよく、結局は田子軍曹の大勝でその日の麻雀は終了致しました。暫くすると田子軍曹は何を考えたのか、「藤田曹長、屋上で記念写真を撮りましょう。」と言うのです。私は、「それでは麻雀メンバー四人で、ひとつ記念写真を撮すか。」と言って、屋上に上がりました。その時屋上で撮した記念写真。それが田子軍曹との最後の記念写真になろうとは。また、これが今生の別れになろうとは、その時は知る由もなかったのであります。
(田子軍曹)
(辻軍曹)
(二)
出撃当日は、空中勤務者も四十分位前に 格納庫前に集まっておりました。和佐野曹長が私のもとに来て、「藤田曹長、今日私は気分がすぐれないし、それに飛行帽も宿舎に忘れてきたので、飛行機には搭乗しません。」と言うのです。そこで私は、「和佐野曹長、君は今日無線をやるようになっているのか。」と問いました。彼は、本日の無線担当は私の番ではありませんと答えたので、「無線をやるのでなければ戦闘帽のままでもいいじゃないか。」と、戦闘帽で搭乗するようにと勧めました。が、和佐野曹長は「もういいです。今日は飛びたくありません。」と言って、私の所を離れました。私は急いで自動車運転手に命じ、早く宿舎に行って和佐野曹長の飛行帽を持ってくるように頼みました。やがて飛行帽が届いたので、和佐野曹長に渡しました。その際にも和佐野曹長は私に対し、「今日は気が進まない。それに気分も悪いので、飛行機には乗りません。」と言うのです。その時の顔色は蒼白であり、また、半泣きべその状態で話すのです。私も心配になり、「それでは中隊長に気分の悪いことをよく申し上げて、搭乗者を交代して頂く様に頼みなさい。」と言ったのであります。彼は、「そうします。」と言って、中隊長の所に行きました。暫くすると、また私の所に来て、「今、中隊長に申し上げましたが、『戦場で何を言うか。』とお叱りを受けたので、気分が悪くても搭乗して行きます。」と、わざわざ私に告げに来たのであります。
和佐野曹長は、当日嫌な予感がしていたのではないでしょうか。この様な和佐野曹長の仕草が、これまた今生の別れに繋がるとは、誰も知る由がなかったのであります。
(和佐野曹長)


