二人がファストフード店を出ると、目の前の通りに黒い車が二台停まっていた。青年に心当たりはない。しかし、少女にはあった。ナンバーにも見覚えがある。
青年の手を取り、急いでその場から離れようとした少女の前にサングラスをかけた、スーツの男が立ちはだかった。踵を返し、反対側に走ろうとした少女の前に、今度は女性がいた。
たじろぐ少女と、困惑した表情で少女に掴まれた腕を眺めていた青年は退路を失ってしまった。
「唯、こんなところでなにをしているいるの?」
「お母さん。」
愕然として、少女が呟いた。
「帰りなさい、家に。」
しかし、次の言葉ははっきりとしていた。
「帰らない。家には帰らないわ‼︎みこと、走るわよ。」
「え、あ、は」
はい、と言おうとした青年の手を引き、少女は踏み切った。
「追って‼︎」
先ほどの女性が、手下らしき二人に命令を出す。しかし、二人が青年の背中に手をかけるより早く、撤退を確認した青年が、引っ張られている手を引き戻し少女をお姫様抱っこの容量で抱え込んだ。そして、素早く跳躍する。
「な、馬鹿な‼︎」
追っ手どころか抱えられている少女すらも、その表情が凍っている。
車を踏切台代わりにした青年は、軽く二、三十メートルほど吹っ飛んだ。
いくら車の車体が弾力があるからといって、人間二人を跳ね上げるほどの反発性は車にはない。
青年は向かい側のビルの屋上に降り立つと、続けて跳躍し、ビルを駆け巡った。
少女にお母さんと呼ばれた女性は、
「どういたしますか、奥様」
という、部下の声を聞いてようやく我に帰った。
「いくらあなた達でもあの子は追えないでしょう。仕方がないわ。一旦戻ります。」
と言って、潰れていない方の車の後部座席に座った。
女性、新城凛は少女の心配よりも、自分の心配をしていた。別に身勝手であるというわけではない。少女の強さは充分に承知している。その上で、やはり少女を支えているのは母親である自分と、夫だけだとわかっているからだ。
自分が弱い人間だということを、凛は小学生の時から知っていた。非力で無力で、一人では何もできない。無論、家事や炊事のことをいっているのではなく、それこそ少女の人生に影響を及ぼすほどの力は凛にはない。だから、強い人に焦がれた。強い人と結婚し、せめて娘は強い子にしようと、そうしてきた。努力は実った。しかし、神は残酷にも幸福な時間を奪っていった。
