火縄銃の象嵌に父母を思う。 | todou455のブログ 火縄銃ときどき山登り

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火縄銃の象嵌に父母を思う。

火縄銃には,竜や鶴,亀,松竹梅などの縁起のいい文様や,家紋,中国の名言などが象嵌されているものが多い。これは,薩摩藩士が堺の鉄砲鍛冶に注文した狭間筒という江戸時代の長射程狙撃銃である。
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薩摩の狭間筒
鹿児島県登録   摂州住  松本   ▯ ▯
   
全長  143.3cm  銃身長  113.2cm  径    1.3cm   

 この火縄銃には「慎旃」の文字が金象嵌されている。「慎旃」とは,「戦場で勤めを立派に果たせ」という意味である。中国最古の詩集である詩経国風の中にある「陟古
(丘に登るという意)」と題する歌が出典だ。遠征に赴いた魏の男が、故郷の父母や兄の言葉を懐かしんで歌った次の歌からとったものだ。

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詩経国風 魏風  陟古

原文は次の通りだ。

陟彼古兮  瞻望父兮  
父曰嗟予子  行役夙夜無已 
上慎旃哉  猶來無止

陟彼丘兮 瞻望母兮  
母曰嗟予季  行役夙夜無寐  
上慎旃哉 猶來無棄
 
意訳すると,次のようになる。
彼の岩山に陟(登)って、父を遠くに思いやる。 父の声がする「嗟(ああ)、わが子よ。戦争に行ったのだから、一日中休む暇もないことだろう。だが勤めを立派に果たしなさい。そして戦地に留まることなく來ってくるのだよ。」

彼の小山に陟(登)って、母を遠くに思いやる。の声がする「嗟(ああ)、わが末の息子よ。戦争に行ったのだから、一日中寝ることもないだろう。だが勤めを立派に果たしなさい。私を見棄てることなく,きっと戻ってくるのだよ。

 親とは,本当にありがたいものである。この鉄砲の持ち主だった薩摩の武士は,戦場で義務を尽くすことと父母の深い恩に感謝して,「慎旃」の文字を象嵌させたのだろう。息子を思う両親も,両親を思う息子もどちらも素晴らしいと,私は思うのである。古い物は様々なことを教えてくれる。
  さて,今夜は,久しぶりに故郷の母に電話をしてみるか。