第5章 『家族の在り方』 22 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/




22.



メニュー表を見てみると、値段はとんでもないものだった。
こんなもの、学生はおろか、普通のサラリーマンなら手の届かないような値段だった。
「美波、何頼んでいいのかわからないんだけど……」
「ごめん、そりゃそうだよね」と美波は苦笑いをした。
「メニュー貸して?私が適当に頼むよ。飲み物、何が良い?」
「えーっと……」
「お酒飲む?」
「う、うん……。なんか柑橘系ので」
「わかった」
美波はそう言って手を高く挙げると、先ほどとは違う青年が来てテーブルの横でひざまずいた。
「ドリンクはレモンハイ二つ。食べ物は海鮮サラダにポテト盛り、おつまみセットにそば飯。代金は、店持ちでお願いします」
「はい、かしこ まりました。ただいま」
青年は注文をさっと機械に打ち込み、笑顔で去って行った。

先程から見る青年たちは、やはりどう見ても同い年くらいにしか見えなかった。
俺と同い年くらいの青年がこういった店で働いているということには驚きであったし、世界の違いに戸惑った。
「美波も、もう慣れてるんだな……」
ふとそう言うと、美波は決まりの悪そうな顔をして俯いた。
「いつからここで働いてるんだ?」
俺たちの間には再び少しの沈黙が生まれたが、いつまでも黙っていては何も始まらないとわかり、話したくはなかったが本題に入ることにした。
「この間も話したけど……お母さんが倒れてからよ。元々はね、私コンビニでバイトしてたの。高校生の頃からね。だけど、高三の時 にお父さんが出ていったって話したでしょ?それから、コンビニだけじゃなくて飲食店とアパレルの三つ掛け持ちするようになったの。それで、給料は全部生活費にあててたの。その時はさ、お母さんも掛け持ちして働いていたしなんとかそれで生活出来てたんだ。ただ、お母さんが倒れちゃったから生活は私の給料だけでやっていかなきゃいけなくなって……」
「それでこの店を?」
「そう。ここのオーナーね、飲食店で働いてた時の常連さんだったの。元々この店のオーナーっていうのは知ってたし、相談してみたらバイトを三つ掛け持ちしてるよりも圧倒的に給料よくてさ……。それで」
「そっか……。このことは誰かに?」
「言えないよ。こんな店で働いてること……」
「だよな……」
「正 直ね、ここで働いてても生活辛いんだ。お母さんは入院してるから治療費だってかさむしさ……。だからね、最近は少しでも多く稼げるように出勤増やしたり一杯注文してもらうために多少のお触りは我慢したりしてたんだ。そしたら、さっきの人は私が我慢してるのをいいことにさ」
「そういうことだったのか……」
そう話しているうちに、美波の目からは涙がこぼれていた。

その時、注文していた飲み物と食べ物が運ばれてきた。
青年は美波が泣いている状況をただ事じゃないと察したようだったが、ウェイターに徹する彼らはそういったところには首を突っ込めないのだろう、腑に落ちないような表情で料理を置いて去っていく。

美波は、料理と一緒に運ばれてきたおしぼりを手に取り、化粧が落ちないようそっと目元に やり涙をぬぐった。
俺はただ、その姿を眺めていることしかできなかった。
美波の涙をぬぐってやることも、そっと抱きしめてやることも、何か言葉をかけてあげることも、何もできなかった。
それがとても悔しく、歯がゆかった。
先程までは薄れていた、地下ならではの息苦しさを急に思いだし、胸が苦しくなった。
できるなら、叶うならこの場から逃げ出したかった。
この深く暗い闇から、光の刺す明るい世界へ逃げ出したかった。
しかし、美波をその世界に取り残しておくことも到底できなかった。

――美波を助けなきゃ……

しかし気持ちばかりが先走り、どうしていくべきかなんて何もわからなかった。
ただただ、空回りするだけであった。
今の俺は、針のない時計のようなものだった。