それからアリスはもう片方の私の隣のイスに腰掛けた
アリスはしばらく黙っていたが
何かを決心したように口を開いた

「・・・・やっぱり 帽子屋さんも昔と違うんですね・・・?」


私はその言葉の意味を知っていた
だからうなずいて笑った

「何せあなたは夢を見ていたのですからね・・・・。」


アリスは小さくうなずいて
ここに来るまでに何があったのかを教えてくれました


彼女はとても退屈だったそうです
お姉さまはすでに結婚されており、家におらず
彼女はいまだに男に恵まれずに家で一人過ごしていたそうです
そんなとき  庭に白ウサギが現れたそうです
と言っても

白ウサギの耳を生やし 小さなふさふさのしっぽを生やし
懐中時計を首からぶら下げた
腰のあたりぐらいの背をした青年


なんですけどね・・・

最初アリスは目を疑ったそうです
なんだこの変人は、と
しかし 耳も尾も本物でした

だったらこれもやはり夢なのだろうか


そう思って これはこれで面白いのではと
ウサギについて来たらしいのですが・・・・・・・・・・・・



来て 彼女は絶句したそうです
そこは 彼女が昔夢見た世界と同じで
しかし まったく違った世界だったのだ




そこは

本当の「不思議の国」だったのです

なんだか大事なことを忘れている気がする
私は望んで寝ていたわけではなかったはずだ


そう思っている間に扉のきしみが止んで
ゆっくりと小さな足音が耳に届いてきた
そうしてこちらへと真っすぐ歩いてくる足音を聞きながら
私はとても気分がいいことに気づいた
そうしてやっと思い出したのだ
私が待っていた事を




「・・・・・イカレ帽子屋さん・・・・?」




小さく遠慮がちな声で お客は私の名前を呼ぶ
彼女がうろたえているのが目を閉じていても伝わってくる
我ながら意地悪だと思う
私はタヌキ寝入りをきめていたのだ
起こさないほうがいいと思ったのか少しずつ足音が離れていく
と思ったら 隣のイスをできるだけ静かに引いて座ろうとする音がした




「座ってはだめだっ!!」



私はとっさに叫んでしまった
いきなり起きて叫んだ私に驚いたのだろう
アリスはびっくりして椅子から手を離した
私は構わず続けた

「そこには眠りネズミが寝ていたから 汚れているのだよ。」


それから私は少し落ち着いて
成長した彼女を見つめると立ってお辞儀をした

「驚かせて申し訳ない。アリス。 待っていたよ。」



アリスはぎこちなく会釈すると
少し微笑んで「お久しぶりです」と言った

私もそう長いことは待っていられなかった
とても眠たかったのだ
おやつの後はいつも睡魔に襲われる
別に襲われて悪いことはないのだからいいのだが・・・
今日はそういうわけにはいかない

アリスに会いたい・・・・
アリスに・・・・・・
ア・・・・リ・・・・・・・・・・・・・ス・・・






遠くで
扉をたたく音が聞こえる
小さく響いてすぐ消える
また二回 小さく扉がたたかれている
・・・・そんなことしたら扉がその内に怒鳴るだろうに・・・
「痛いだろっ!!」って・・・
・・・・・あれ  またたたいてる
今日の扉は機嫌がいいのかな・・・?
それとも――――――――・・・・・


扉の重たい口が何かをしゃべっていた
しかも口調が優しい
・・・・イカレ帽子屋は中で寝てるんだよ・・・?
ああ そうともさ
だからおっぱってやんなよ
・・・・ゆっくり静かに中にお入り・・・・!・・・・?
おいおいおい・・・こちとら睡魔にわざと負けてるんだよ?
起こす気かい・・・・

ん・・・・・?
わざと負けたんだったっけか・・・?


その時だ
扉がゆっくりと軋んだ音がした