なんだか大事なことを忘れている気がする
私は望んで寝ていたわけではなかったはずだ


そう思っている間に扉のきしみが止んで
ゆっくりと小さな足音が耳に届いてきた
そうしてこちらへと真っすぐ歩いてくる足音を聞きながら
私はとても気分がいいことに気づいた
そうしてやっと思い出したのだ
私が待っていた事を




「・・・・・イカレ帽子屋さん・・・・?」




小さく遠慮がちな声で お客は私の名前を呼ぶ
彼女がうろたえているのが目を閉じていても伝わってくる
我ながら意地悪だと思う
私はタヌキ寝入りをきめていたのだ
起こさないほうがいいと思ったのか少しずつ足音が離れていく
と思ったら 隣のイスをできるだけ静かに引いて座ろうとする音がした




「座ってはだめだっ!!」



私はとっさに叫んでしまった
いきなり起きて叫んだ私に驚いたのだろう
アリスはびっくりして椅子から手を離した
私は構わず続けた

「そこには眠りネズミが寝ていたから 汚れているのだよ。」


それから私は少し落ち着いて
成長した彼女を見つめると立ってお辞儀をした

「驚かせて申し訳ない。アリス。 待っていたよ。」



アリスはぎこちなく会釈すると
少し微笑んで「お久しぶりです」と言った