私の運営している『名言と愚行に関するウィキ』より1項目抜粋。

 

 

 議論している際、勝敗を客観的に示すことは、一般には困難である。

 

 勝敗が「誰の目から見ても明らか」なものの多くは、ある者が矛盾した言動をしたとき、つまり「Xである」と主張しておきながら、「Xではない」とも主張ないしそのような行動をする時くらいである(なお、主張と行動の食い違いについては、必ずしも「矛盾」ではないことも多い)。

 

 ここでは、もう一つ、明快な敗北の例があるので解説しよう。
 それは、「自らの前提の破棄」である。

 

 例えば、「タバコは健康に悪いhttp://totutohoku.b23.coreserver.jp/totutohoku/index.php?cmd=read&page=%A5%BF%A5%D0%A5%B3%A4%CF%B7%F2%B9%AF%A4%CB%B0%AD%A4%A4&word=%BB%FE%B7%CF%CE%F3)」の項目において、「カロヤンガッシュ」という人物が演じたのがその一例である。
 彼は喫煙を規制すべきだと訴えていたが、その根拠に関する発言の要約を、時系列順に並べてみよう。
 >「健康に悪い」は規制する理由に当たる。2007-08-29 (水) 22:55:57
 (※この発言内には、文脈上、「直接的」な迷惑を指す例示がある)
 >「間接的」に周りに迷惑であれば、規制されることもある。2007-09-02 (日) 01:54:44
 >直接的であろうと間接的であろうと(略)規制されうる。2007-09-02 (日) 22:46:12
(※以上、直接引用ではなく意図の要約である)
 当初「直接的に迷惑な場合、タバコは規制すべきだ」と言っていたのが、「『間接的』に迷惑なら、規制されることもあり得る」となり、最後には「直積的であろうと間接的であろうと、規制され得る」と変化している。
 徐々に「強い前提に基づく主張」から、「当たり前無意味な前提に基づく主張」に後退していくのが看取できよう。これは、前回置いた自らの前提を放棄して、議論に一見負けないために、より「安全な前提」を置きなおす行為であり、こうした行為の実行は、そのまま議論における明快な敗北を露呈してしまう。

 

 もう一例だけ。

 アメーバピグというSNSサービスにいる「りおし」という愚物が、私と次のようにやりとりした。時系列順に要約を記載する。

りおし「とつげき東北は東京大学非常勤講師ではないことを論証した。なぜならば、東京大学には非常勤講師という役職が存在しないからだ」
とつげき東北「東京大学に非常勤講師は存在する。(URL掲載)このように、実際に東京大学は非常勤講師を募集し、雇用している」
りおし「東京大学非常勤講師になるためには、教員免許が必要だ。とつげき東北は教員免許を持っていないため、とつげき東北は東京大学非常勤講師ではないと証明できる」
とつげき東北「東京大学非常勤講師になるために、教員免許が必要だなどというバカな話は聞いたことがない。それは常識レベルだ」

りおし「非常勤講師になるには教授の職位が必要だが、とつげき東北が教授であるわけがない。よって、とつげき東北は東京大学非常勤講師ではない」

とつげき東北「非常勤講師になるのに教授の職位が必要だなどというキチガイじみたことは聞いたことがない。それは常識レベルだ」

りおし「非常勤講師の任命権者は教育委員会だ。とつげき東北は東京大学教養学部の教授会で認めたられたからと言っているが、教授会は教育委員会ではない。ゆえに、とつげき東北は東京大学の非常勤講師ではない」

とつげき東北「……。教育委員会と大学は一切関係ない。それは高校教諭等の話だ。それは常識レベルだ」(このあたりの恥ずかしい発言は、「りおし」のブログに、惨めにも未だに晒されている)
りおし「少なくともとつげき東北は、今現在は東京大学非常勤講師ではない」
とつげき東北「それは以前から私が自ら口にしていることで、何も問題はない」
りおし「とつげき東北は東京大学非常勤講師といっても、学級会レベルの、大したことのない講義をしているだけだ」

 

 一読しておわかりだろう。
 最初は、「相手は東京大学非常勤講師ではない」と「論証」までできたという、途方もなく困難なことを達成したと報告していた「りおし」なる狂人が、無知蒙昧な主張の数々を繰り返しながら徐々に前提を変更し、最後には「(彼が言うにはレベルが低い講義だそうだが)相手は東京大学非常勤講師だった」と認めるに至るのである。
 これを「りおしが論破された」と形容せず、どう言い表そうか……。

 

 長期に渡る議論をしていると、「自分が勝った、相手を論破した」といったことをお互いがアピールするようになり、単なる罵声の浴びせ合いに陥ることが多いものだが、こうした「前提の放棄と逃げ」を的確に指摘することにより、読者に対して特権的な立ち位置をキープできるので、覚えておくと良い。