〈大阪:マネジャー魂!(3)太成学院大高・福長菜月さん〉亡き兄、そばに感じて
2011年7月5日10時16分
練習試合でスコアをつける太成学院大高の福長菜月マネジャー(左)。隣で先輩マネジャーが見守る=四條畷市逢阪
「翔馬の妹やから、みんなも妹のように接してくれ」
太成学院大高(大東市)の福長菜月(1年)は4月29日、監督の仲辻宏之(44)からそう紹介され、マネジャーとしての第一歩を踏み出した。野球部員だった2歳上の兄翔馬は1年前の同じ日、交通事故に遭った。 その日の朝、菜月は、携帯電話で音楽を聴くイヤホンを貸してほしいと兄に頼まれた。「ええやん貸してや」「私も使うからいやや」。兄妹げんかをしたまま登校した。夜、兄が救急搬送されたことを知った。乗用車と接触して頭の骨が折れた兄は、ベッドでうなされていた。「大丈夫やんな」。そう信じた。しかし容体が急変、9日後に息を引き取った。菜月は泣き続けた。
兄はいつも励ましてくれた。友だちとの関係で菜月が落ち込んでいると、「しゃべろうや」と菜月の部屋にいきなり入って来た。頼みもしないのに野球部の応援の踊りを目の前で見せてくれた。それで笑って、心が少し軽くなった。その兄にもう会えないなんて。2カ月後。兄を失った実感を持てないまま、兄がいたチームの夏の大会の初戦を見に行った。応援席で同級生が遺影を持ち、「翔馬」と書かれたタオルやシャツを身につけて応援していた。「みんなから好かれとったんや」。一緒に応援すると、兄が近くにいる気がした。別の高校に進学するつもりだったが、「お兄ちゃんと同じ野球部に入りたい」と進路を変更した。
100人を超える部員の中で女子生徒は菜月1人だけ。野球の知識はほとんどなかった。思ったより、楽しくない。そう思っていた6月、練習試合で弁当を忘れた菜月に「ご飯忘れたんか。俺のやつ分けたるわ」「これも食べ」。兄の同級生が栄養補助食品やおにぎりを分けてくれた。距離が一気に縮まった。スコアのつけ方やパソコンを使ったデータ集計は、先輩マネジャーの藤井良介(3年)に教わる。藤井は「頑張っている姿を見ると、ムードメーカーだった翔馬を思い出し、自分も頑張ろうと思える」と話す。菜月は毎日、仏壇の写真に「今日は応援してや」「勝ったで」と話しかける。お兄ちゃんがいたから、私はマネジャーになれた。お兄ちゃんが大好きだったみんなと一緒に、甲子園に行きたい。それが今の目標だ。=敬称略
〈大阪:マネジャー魂!(4)大冠・高田勇気君〉選手を光らせるため
2011年7月6日12時1分
大冠の高田勇気マネジャー(左)は、植村はるかマネジャー(右)がつけたスコアを見て「こっちの方が読みやすいな」=高槻市大塚町4丁目
夕方、練習が終わった無人のグラウンドを、大冠(高槻市)のマネジャー高田勇気(2年)はくまなく歩く。球が落ちていないか、明日の朝練で使う打撃練習用の網に穴は開いていないか。点検して回る。翌朝、午前6時前に一番乗りで姿を見せた高田は、再びグラウンド状態のチェックを始めた。「グラウンド管理は僕の仕事。誰にも譲れない」
プロ野球の広島カープが好きだった高田は小学6年の時、カープと同じ朱色を使ったユニホームの智弁和歌山が気になって、甲子園のテレビ中継を見た。一球にくらいつく迫力に「こういう野球もあるんだ」と驚いた。高校野球の本を読みあさり、そこに紹介されていた注目の地方の選手を直接見たくて、中学の時には大阪はもちろん、兵庫や京都の大会にも足を運んだ。小学4年の時に野球を始めた高田の中学のポジションは捕手。まわりの友人は打撃が好きだったが、高田は打者が打ちにくい配球を考えて「投手を光らせる」のが好きだった。地元公立校の強豪、大冠で野球をすることを夢見ていた中学3年の時、腰を痛めた。医者に「無理はできない」と言われた。野球を続けたい。でも捕手としてはたぶん通用しない。「マネジャーなら選手を光らせることができるんじゃないか」
昨春、大冠に入学した高田は監督の東山宏司(49)に頭を下げた。「マネジャーでお願いします!」東山の25年以上に及ぶ監督生活で、初めからマネジャー志望の男子生徒は初めてだった。驚いたが、高田の熱意を知って受け入れた。2年生のマネジャーは高田と植村はるかの2人だ。選手に対する細やかな気配り、大きな文字で書く読みやすいスコア。女子マネジャーの植村のそんなところを見て「かなわない。でも、それが刺激になっている」と高田。植村は「高田君の野球の知識やグラウンドでの情熱を感じ、自分も頑張ろうと思う」と話す。6月末、グラウンドでは激しいノックが続いていた。高田は翌日の練習試合に備え、選手たちのバットやヘルメットを先にケースに詰めた。練習後、ヘトヘトになった選手たちの「ありがとう。助かった」の一言がうれしかった。「夏の大会でも、選手には100%の力を出して光ってほしい。そのために、できることは全部する」=敬称略


