世間一般的には「肩が回りにくい」などの際に「肩甲骨の動きが悪い」など、部位に着目する事が多いと思われる。

 

「肩甲骨はがし」が分かりやすい例で、肩甲骨(厳密には健康胸郭関節)の柔軟性が改善する事がイコール「肩のトラブル改善」と思われている節がある。

 

しかし、専門家の方々はお分かりだろうが実際には第一に肩甲骨に限らず、関節の役割は「可動性」以外にも「安定性」があるので、余りに不安定で動き過ぎる肩甲骨は上肢に力を上手く伝えられないので不具合になる。

 

また、肩関節は「肩関節複合体」と呼ばれるように「肩甲上腕関節」「肩鎖関節」「胸鎖関節」「肩甲胸郭関節」「第二肩関節」*詳しくはこのblogの肩関節の項をご覧いただきたい。

 

 

などが協調して正常な動きが実現できる。

 

<姿勢と肩関節複合体の関係>

上肢帯の動きは肩関節複合体の協調によって成り立っている事は理解している方が多いと思うが、更に言うと「脊柱」「胸郭」などの運動連鎖も大きく関係するので「姿勢」も考慮しないと上肢帯の動きも正確に判断出来ない。

 

分かりやすいところでは肩甲骨は胸郭の上をスライドするように動く為に、胸郭のアライメントに大きく依存する。

 

有名なのが下のカリエの「軟部組織の痛みと機能障害」

 

 

」にあるイラストだが、正常なアライメントと円背姿勢のアライメントで肩関節の屈曲の動きを評価する際には、円背のアライメントであるなら肩甲骨が前傾するために第二肩関節の位置が前下方向に偏位するので、正常アライメントに対して上腕骨がインピンジメントを起こしやすくなるため可動域が制限される。

 

これを肩甲上腕関節の可動域改善のストレッチなどで改善しようとしても、そもそも改善しない事が分かると思う。

更に運動連鎖の面で考えても姿勢は上肢帯の動きに影響を与える。

 

通常だと「屈曲」では屈曲の初期から中期にかけては肩甲骨は外転位を取る。

内転位では「棘上筋」などインピンジメントでダメージを受けやすい腱板がストレッチされるポジションになる。

また、肩甲上腕関節は「肩甲骨面(スキャプラプレーン)」において靭帯や関節包の捻じれがなくストレスが小さいが、それを逸脱する程に動きの際にストレスが生じやすい事からも肩甲上腕関節に大きなストレスが加わる事が想像できる。

<姿勢評価は運動評価に先立つべき?>

例えば、胸郭の伸展が強い「ミリタリーバック」のような姿勢を取り続けている人は、先ほどの上肢帯の屈曲に生じる肩甲骨外転が生じにくい事が想像できる。

 

そのようなクライアントがいる際に肩甲上腕関節のストレッチや肩甲骨のモビライゼーションなどを行う事も悪くは無いと思うが、私は優先順位としてアライメントの評価と修正があってしかるべきに思う。

 

もちろん、現場の状態やセッションの環境(場所、時間、時系列)などを考慮して実施出来ない事はあり得るだろうが…

 

<動きの評価の前に姿勢評価>

円背の人間は肩甲上腕関節の屈曲時にインピンジメントが起きやすい事は割と多くのトレーナーや施術家は周知の事実となっているが、今後は運動連鎖の評価においても事前の姿勢評価の有用性が広まるなら、とかく「可動性」「柔軟性」を「肩甲骨はがし」のような強烈にイメージとして刷り込みされている一般の方々の意識も変容して、より身体全体を部分だけでなく俯瞰して全体で捉える事の出来る、健康情報リテラシー社会に近づくのではないか?と考えている。

 

参考文献