《科学的根拠(エビデンス)との上手な付き合い方を考えてみた》

健康産業でも医療と同じく「科学的な根拠」
いわゆる「エビデンス」が重視されるようになってきたのは周知の事実だが、一方で科学的な根拠では解決出来ない問題が依然として多い事も現実である。

例えば、腰痛に関しても「日本整形外科学会」のガイドラインが2019年に改編されたが、以前までの「非特異性腰痛」いわゆる「原因が分からない腰痛」「慢性腰痛」が外来患者の85%を占めると言うガイドラインから、画像診断技術などの発展に伴い約80%は診断可能となったと改変されている。

内訳は添付画像を参考にして欲しい*または日本整形外科学会のガイドラインをお読みください。

 

 


しかしながら、私自身の肌感覚としては依然として慢性腰痛で悩んでいる人は多い。

また、残念ながら整形外科に行ったが電気だけ当てられて終わったという人も多いと感じる。

なので、慢性腰痛などの不定愁訴に対応する民間療法であったり、トレーナーなどの運動指導者にとってはエビデンスに関しては100%信頼を置いていては仕事にならないというケースも実際には多いと思う。

それに科学での定説はあくまで「定説」でしかなく、科学の発展は「定説」を覆す新事実の発見の側面もある。

後に示すが現在の運動科学やロボティクスで重要視されている「生態心理学」などは、それまでの定説と全く異なっていた為に、発表当初は学術界で半ばオカルトのような存在だった。

 

 

<科学的なエビデンスも盲信するならオカルト>

私個人の感覚としては科学的なエビデンスと言えど、盲信するなら時に「オカルト」となってしまう事もある。

腰痛リハビリでは過去の理論である「腹腔内圧理論」「後部靭帯系理論」などから生まれた「上体起こし」「上体反らし」を未だに実施しているなら、周囲の専門家にオカルトと言われかねないと思う。

 

 

少しホットなトピックだと「生態心理学」が最近のトレーナーの間で注目されているが、これは「直接知覚」という思考に登らない知覚が人間の無意識下の認知や行動を規定しているという1940年代に活躍したジェームス・ギブソンという心理学者が提唱した学説で、早くにこの世をさったジェームスの学説を妻のエレノアや弟子たちが立証していって、現在では「ロボティクス」や「人間の運動学」を考える上では切っても切れない学説になっている。

 

 

2020年頃から欧州の方では「エコロジカルアプローチ」という名称で、生態心理学的なアプローチをトレーニング指導にも活用しだしてポジティブな研究結果も多数出ている様だ。

 

 

この生態心理学が1940年代の頃には従来の定説と余りに異なるために、異端児扱いされていたが、妻のエレノアが旦那の研究を引き継ぎポジティブな結果を多く出す事で世間から認められるに至り、今の科学の発展に大きく貢献している。

定説と大きく異なるからとアカデミックな人たちが生態心理学の研究結果に排他的であったなら、もしかすると世に出てこないで科学の進歩も今より遅れていたかもしれないと思うと、私は科学的なエビデンスや定説に余りに盲信してしまう事の危険性も感じる。

更には定説の盲信は「センメルヴェイス反射」と言う悲劇を過去に引き起こした事も忘れてはいけない。

これは、出産の際に産婦人科医の手指消毒が一般的で無い頃に、多くの産婦人科医が「手指を消毒して無いから新生児の産褥熱の発生による死亡率が高い」という主張をしたセンメルヴェイス医師は同業者の産婦人科医に社会的にも物理的にも袋叩きに合って死んでいる。
https://ja.wikipedia.org/.../%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%A1...

このようにそれまでの定説と余りに異なる事に加えて、それまでの定説が覆ると自分たちの権威が失墜したり、立場が不安定になる場合には、それが正しい事実であっても既得権力側に徹底的に叩き潰される事もあり得なくもない。

そのような危険性を回避するためにも、私は科学は絶対ではないという視点は誰しもが持つべきに思っている。

<一般意味論の地図と現地の説明から考える>

では、本題である科学的なエビデンスとの付き合い方はどうすれば良いか?だが

私自身は以前にTC研究会のセミナー講師をしていただいていいた理学療法士の宮井健太郎先生に教えてもらった「一般意味論」の教育的規範に用いられる「地図と現地」の例えがとても分かりやすいし、多くの人に腑に落ちる説明だと思っている。
https://www.otani.ac.jp/yomu.../kotoba/nab3mq0000088qqd.html

つまり「地図は現地そのものではない」と言う事である。

これを私はお客様などに説明する時には分かりやすく「Googleマップ」を例に出す。

「Googleマップは毎年精度が高まって、今やどこに行くにも活用しない人はいませんよね?」

「でも、時々Googleマップに目的地の建物が無かったり、GPSが少し狂って別の場所に出る事がありますが、だからと言ってGoogleマップをいつまでも妄信しないで、そういう時には周りの人に聞いて見たり、交番に行ってお巡りさんに道を聞きますよね?」

「そんな感じでネットの情報はいくら権威的な人が言ってる事でも参考程度にした方が良いですよ」

という感じで説明する。

しかし、不思議な事に私たちは身体の事になると「科学的なエビデンス」を妄信してしまうケースが結構見受けられるのではなかろうか?

例えば…

✅腰痛の権威が考えたリハビリを実施して一向に腰痛は改善されないが、盲信していつまでも実施する…結果として却って腰痛が悪化する。
✅最新のトレーニングメソッドを実施するが却ってパフォーマンスが落ちてしまった、しかし気にせず実施を継続する


こういう事は一般の方はもちろんだけど、私たちのような専門家にも結構見られる事だと思っている。

Googleマップなら目的地が見つからない場合はすぐに違う方法を検討するが、不思議に身体の事となると「科学的なエビデンス」を妄信してしまうケースが多い。

こうなってしまうと最早オカルト信仰と変わらなくなってしまうのではなかろうか?

実際に私の整体院のお客様でも「youtubeで腰痛改善体操の動画があったのでやってみたら、腰がドンドン痛くなってきた」という方が結構お越しになる。

「なんで途中で止めず痛みが出るまでやったのですか?」と伺うと

「有名なyoutuberだったから」「有名な大学の先生だったから」「専門家だったから」

という回答が大抵の場合は帰ってくる。

これは私たちのような専門家も由々しき事態だと真剣に考えるべき問題と思う。

第一そもそも論だが、私たちの身体は「個人差」が非常に大きいので、科学的エビデンスでグレードが高いものであっても、個人差の為に当てはまらない事は大いにあり得る可能性は考慮に入れなくてはいけない。

しかし、私たちのような専門家の中にも科学的なエビデンスを余りに過信し過ぎて、クライアント「個人」を見てない施術家、トレーナーが多いのは現実ではなかろうか?

そのような施術家、トレーナーが見ているクライアントは自分自身の感覚に自信を持てるようになるだろうか?
きっと、自分自身の感覚より権威者の情報を信じる思考になることだろう。

それこそ、Googleマップに表示されているから、科学の最先端であるGoogleマップが正しいに決まっていると目的地を探し続ける人のように滑稽な事になりかねない。

と言う事で、私は「自分の身体の事に関しては、科学は参考程度にして下さい」とクライアントに説明している。

その理由のもう一つは残念ながら、今のネット社会での情報は「玉石混交」である事や「悪貨良貨を駆逐する」状況でもあるからだ

一見科学的に見える情報も商売の為に歪曲して説明されているケースは多々ある。

<まとめ>

私たち職業として健康産業に関わる人間は「Googleマップを妄信しないで、参考にして目的地にたどり着く」ように、クライアントには「科学的な知識を参考にしながらも、最後は自分の身体の感覚を頼りに健康に辿り着く」事を指導すべきに思う。

そして、Googleマップが常に精度を高める努力や技術的なイノベーション、工夫を怠らないように
運動科学や医療もより知識、技術の精度を高める努力を怠らず、現場では研究から生まれたイノベーションを活用してサービスの革新に務め、社会における真に健康な人の人口を増やしていければと思っている。

以上です。

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