こんにちは
トータルコンディショニング研究会代表の奥川です。
さて、皆さまは「いわゆる」体幹トレーニングと呼ばれるトレーニング。
一定のポーズを取って静止するスタビライゼーショントレー二ングは腰痛リハビリと関係深い事はご存じでしょうか?
前回ご説明したように大きな意味での「体幹トレーニング」は定義が曖昧でして(私の知る限り)人によっては「上体起こし」「ピラティス」「ヨガ」なども体幹トレーニングに入れる人もいます。
『【体幹トレーニングはアスリートに必要なのか?】』
⇒ https://ameblo.jp/totalconditioning/entry-12837610031.html #アメブロ @ameba_officialより
ですが一般的に体幹トレーニングと言われてイメージするのは「プランク」では無いでしょうか?
実は私の整体院のお客様に伺っても「体幹トレーニングやった事ありますか?」と聞くとほとんどの方が「プランクですよね?」と仰るので、世間的にはプランクのようなスタビライゼーショントレーニングが体幹トレーニングなんだと思います。
実はこのスタビライゼーション系のトレーニングの歴史は「腰痛リハビリ」の歴史と密接なのを知ってましたか?
腰痛リハビリの歴史には大きく分けて3つ理論変遷がありました。
1, 腹腔内圧理論
2, 後部靭帯系理論
3, 体幹深層筋制御理論
の3つです。
まず「腹腔内圧理論」の時代には腹筋群が腹腔内圧を上昇させる事で脊柱を前側から支えて、尚且つ伸展モーメントを生み出し脊柱安定化に働くと考えられていました。
そして、猫も杓子も上体起こしを行っていたと思います。
私が若い頃は腰痛関係のリハビリの書籍では必ず「上体起こし」を推奨していました。
しかし、この腹腔内圧理論は重量物挙上時や運動時のような強い負荷が脊柱に掛かる時の安定化においては、そもそも腹腔内圧だけで脊柱を安定させる程の伸展モーメントが生み出せない事が分かってきた事から、今はそれほど重要視されていないと思います。
「数学的モデルによる検討では,重量物挙上時に腹腔内圧のみで脊柱を保持し て挙上動作が遂行されると仮定すると、その際に腹腔内圧は250mmHgを超え ることが要求される。もしこれが維持される場合には腹大動脈が圧迫され、内 臓と下肢への血液供給が遮断されることになる 19. さらに腹筋群の横断面積か ら推測される最大出力は60~50psi (0.3~0.4MPa) であり、この出力に対する 輪状の緊張力を体幹に生じることは、事実上、不可能である」
非特異的腰痛の運動療法 荒木著 引用
なんと!重量物挙上時に腹腔内圧だけで脊柱安定させようとすると「腹部大動脈」が圧迫されて下肢帯に血流が供給されない、と書いていますね…
計算上ではありますが、どうやらコンタクトスポ―ツやウェイトリフティングなどの高負荷が掛かる腰部の安定は「腹圧」だけで維持しているのか?は疑問の様です。
続いて、後部靭帯系理論が注目されるようになりました。
これは背筋群と股関節伸展筋群の収縮が筋膜連結している胸腰筋膜や脊柱の関節包、靭帯を伸長する事でやはり脊柱に伸展モーメントを生み出し、脊柱安定化に寄与すると言ったものです。
この時期は「上体起こし」の逆である「上体反らし」が重要と言われるようになったと思います。
しかし、後部靭帯系にも疑問符が付けられます。
背筋群が強く収縮すると脊柱に「剪断力」が発生するために、逆に不安定になるのでは?と言われるようになった来ました。
そして、両方の欠点を補う理論として登場したのが「体幹深層筋制御理論」です。
これは基本的なコンセプトはpanjabiの「脊柱安定化システム」の考え方です。
3つのサブシステムが相互に働く事で脊柱を安定させると考えられていて、前回のコラムで書きました「コアスタビリティ」においても重要な要素と言われています。
受動系(パッシブ)サブシステム
脊椎、椎間板、靭帯、関節包などであり、運動への機械的な抵抗や張力の最終域を安定させる。
能動系(アクティブ)サブシステム
筋腱、筋膜などであり、安定性に加え、感覚入力や運動生成に大きな役割を果たす。
制御系(ニューラル)サブシステム
筋紡錘、ゴルジ腱器官、および脊髄の靭帯からのフィードバックに基づき、筋出力を絶え間なく監視および調整する複雑なタスクを担う、姿勢の調整や身体の外部荷重に基づいて、十分な安定性を保証しながら目的とした関節運動を可能にする。
これらの3つのサブシステムが相互に作用して、コアスタビリティを確保して安全で効率的な運動を実現している訳です。
《急性腰痛後リハビリには体幹深層筋の特異的安定化エクササイズが必須》
この脊柱安定化システムの要となるのは「インナーユニット」と呼ばれる、横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群からなる体幹深層筋群です。
特に注目すべきなのは「フィードフォワード制御」という、四肢が動く前にインナーユニットが事前収縮して腰椎~骨盤の下部体幹の安定を保つ機能です。
これがコアスタビリティの肝でもあります、安全で効率的なモーターコントロールの肝でもあります。
で、この体幹深層筋制御理論が腰痛リハビリのスタンダードになった理由の一つは、腰部捻挫などの急性腰痛を罹患した患者の多くに、腹横筋、多裂筋といったインナーユニットに「活動遅延」「不活動」などが見られ、それが原因となり運動時の局所的なストレスを高めて「慢性腰痛」に移行している事が分かったからです。
よく「ギックリ腰」つまり、腰部捻挫を経験した人は繰り返すと言われていますが、経験的に言われていた事が一部理論的に説明出来るようになってきたわけです。
私がこの事を始めて知ったのは、確か所属しているトレーナー団体NSCAの機関紙に「血圧測定のカフ」を腰の下に敷いてリハビリしている写真を見た時です。(下の写真はペルビックアプローチからの引用です)
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、当初はインナーユニットの特異的な収縮エクササイズ…つまり、腹横筋だけを収縮させるような腰痛リハビリエクササイズが流行ったのですが、腹横筋を使えているか?クライアントにフィードバックするために腰の下に血圧計のカフを敷いて、血圧計の数値がどれくらいなら収縮出来ていると言ったようなチェック方法を採用していたようです。
私は初めてその写真を見た時に「なんか科学的で格好良い!絶対習いたい」と思って、その勢いで日本コアコンディショニング協会に入会したのですが、セミナーに始めた出た時に講師の方に「カフを使ったエクササイズはいつ習えますか?」と聞くと既にカフを使う方法は廃止されていて、結局は習わず仕舞いだったのをよく覚えています。
少し脱線しましたが、体幹深層筋制御理論がスタンダードになったのは恐らくですがインナーユニット事前収縮の不活動、または収縮遅延からの慢性腰痛化への予防に効果的だったからだと思います。
「Hides らは、腰痛患者に対する多裂筋の特異的安定化運動療法の効果を評価するため、特異的安定化運動療法施行群と非施行群とで、腰部多裂筋の横断 面積、疼痛,機能障害、可動域を観察した。
その結果、施行群では機能障害と 多裂筋萎縮がともに改善したが、非施行群では疼痛は改善したものの萎縮には 回復が認められず、多裂筋萎縮に関しては特異的安定化運動療法の重要性が示 唆された」
非特異的腰痛の運動療法 荒木著 引用
上記の通りHidesらの研究によると腰痛患者の多裂筋の機能障害や委縮は自然治癒では改善しない様です。
どうやら、体幹深層筋群の特異的安定化エクササイズが今のところは必須になりそうです。
実際に当院でも繰り返すギックリ腰を持っているお客様は多裂筋の特異的安定化エクササイズで非常に良好な結果を示しています。
で、最初は特異的にインナーユニットを収縮させるのが中心だったのですが、ウエイトリフティング、コンタクトスポーツのような高強度のスポーツを行う人はそれでは不十分だと言う事が分かってきました。
そして、表層筋を収縮させ、それらの筋膜連結によるテーピング効果で関節を安定させる「姿勢制御アウターユニット」もインナーユニットと一緒に収縮させて、より強いスタビリティを発生させる今のスタビライゼーショントレーニングが登場しました。
それが「スタビライゼーショントレー二ング」であり、いわゆる体幹トレーニングになります。
たまぁ~に「体幹トレーニング(スタビライゼーション)は要らない」「体幹トレーニング(スタビライゼーション)をすると動きが固くなる」というトレーナーがいますが
それは当たり前と言うか、そもそも論で言ってしまうと腰痛リハビリから生まれている訳で、実施する目的が違いますので当然だと思います。
言ってしまえば、スタビライゼーショントレーニングを一般の健常者が実施してパフォーマンスが上がる理由は、体幹の「剛性」が増す事が主原因だと思われます。
コンタクトスポーツや高強度の体幹負荷が掛かるスポーツは当然の事に剛性が高い方が有利です。
それに体幹の剛性は近年では「瞬発力」と関連が高いと言われていますので、切り返し動作が多いスポーツなど効果的になります。
また、最近は一般的にデスクワークが主な仕事になりますので、体幹の筋力は弱りがちですから多くの人にスタビライゼーションは実施の恩恵があるでしょう。
実施も静止するだけですから簡単なので、流行る理由も分かります。
ブームになるとどうしても表面的なイメージが先行するので誤解も増えますよね。
本来の意味での体幹トレーニングはもっと広い意味であり、前回お話しました「コアスタビリティ」の概念がベースにあるものですから、動き作りも要素に入ります。
しかし、スタビライゼーションはそもそもが腰痛のリハビリとして誕生しています。
この辺の言葉の定義が曖昧なのが一つの問題だと思いますが、直感的に結論を出す前に少し深堀して、色々と文献を調べてみると新たな発見があって良いのではないか?とも思ってしまいます。
参考文献
コラム作成者プロフィール
奥川洋二