皆さんこんにちは!

 

トータルコンディショニング研究会代表の奥川です。

 

さて、一時の体幹トレーニングブームが過ぎ去り、現在は「ファンクショナルトレーニング」「ムーブメントトレーニング」であったり、中枢神経系の疾患に対するリハビリテーション分野の知識も加えた新しいトレーニング理論などもブームとなっているのではないか?と個人的には思っています。

 

より多角的に人間の運動を見る事は素晴らしい事ですが、その流れに個人的に私が懸念を感じるのは

 

トレーニング法にブームがあるのは仕方が無い事かもしれませんが、そのブームの多くは人間の運動を身体機能の一側面にのみフォーカスを当てるものだからです。

 

《ブームの弊害》

 

例えば、いわゆる「プランク」に代表される「体幹トレーニング」は、体幹の「剛性」を高める事に注目をしていました。

ファンクショナルトレーニングは「運動連鎖」にフォーカスしました。

ムーブメントトレーニングは「MOVEMENT」の著者であり、FMS(ファンクショナルムーブメントスクリーニング)の考案者であるグレイ・クックが「基本的運動パターンの修正」の重要性を述べています。

 

 

 

後述しますが…考案者は別として、ブームに乗る側はそのブームでフォーカスしている人間の身機機能の一要素を中心に人間の運動全てを考えてしまう傾向があります。

 

その傾向はともすれば、人間の運動を「全人的」に見る目が疎かにしてしまうのではないか?と言う事です。

 

《コアスタビリティの概念の一部が体幹トレーニング?》

 

そもそも論になりますが、体幹トレーニングの目的としてよく言われる「コアスタビリティ(体幹の安定)」と言う言葉の定義は、私たちのイメージする「体幹トレーニング」と大きく異なるようです。

 

スポーツ整形外科医として著名なKiblerは「コアスタビリティ」の定義として「体幹、肩甲骨、骨盤、大腿部の一連の活動、つまり多関節運動連鎖であり、予測的にも反射的のも効率的に動ける安定性」と記しています。

 

 

つまりは「人間が効率的に全身運動する為の体幹の安定性」と言う事です。

多関節運動連鎖や、予測姿勢制御を思わせる文言もある事からKiblerがコアスタビリティの要素を部分でなくより包括的で、かつ「動きの改善」を含めている事が分かると思います。

 

また、後ほど紹介しますがKiblerは明確にコアスタビリティ能力は、いわゆる体幹トレーニングが求める、固定する能力では無いと言及しています。

 

どうでしょうか?私たちの考える、いわゆる静止した動きの無い「プランク」に代表される「体幹トレーニング」のイメージと随分と違うのではないでしょうか?

 

《いわゆる体幹トレーニングの原点は腰痛リハビリ?》

 

「プランク」の様な静止状態で体幹の剛性を高める、いわゆる体幹トレーニングのルーツは「腰痛リハビリ」の歴史変遷が大きく関わっています。

 

腰痛リハビリは大きく3回変遷しています。

「腹腔内圧理論」➤「後部靭帯系理論」➤「体幹深層筋制御理論」の3回です。

この3回の変遷を経てPanjabiの「脊柱安定化システム理論」や、腰痛リハビリエクササイズとして考えられたMcGillらの考案した「積極的表層筋トレーニング」Hodgesの「深層筋制御理論」を融合して作られた腰痛リハビリのエクササイズを一般向けに紹介したものが、いわゆる「体幹トレーニング」だと思われます。

一体誰が?それを体幹トレーニングとして広めたのか?は具体的には分かりませんが…

医療分野でのリハビリ技術に先見性のある(パクリ?)トレーナーにより、リハビリ技術がそのままアスリートや一般のトレーニング愛好家に転用された例は過去にも多数ありました。

 

例えば、PNFはポリオ症患者のリハビリテクニックでしたが、今はアスリートも多くが実施します。

バランスボールは元々脳性麻痺の子供のリハビリに使われていました。

フォームローラーもアメリカでリハビリに使われていたものを、日本人のトレーナーがアスリートに紹介して広まりました。(そもそもフェルデンクライスメソッドのツールです)

 

 

さて、いわゆる「体幹トレーニング」として普及されたエクササイズの「形」はMacGillのエクササイズ(写真)そっくりですし、理論体系はPanjabiの「脊柱安定化システム理論」やHodgesの「体幹深層筋制御理論」を使っていますので、先に述べた私の予想が多分あってると思います

このように医療分野のリハビリ技術がアスリートや一般スポーツ愛好家のトレーニングに転用される事自体は悪い事では無いのですが、気を付けるべき点がいくつかあります。

その一つはアスリートや一般のスポーツ愛好家の多くは「健常者」であると言う事です。

 

例えば、体幹トレーニングの元ネタの腰痛リハビリは「急性腰痛後の慢性腰痛への移行」を防止するために作られています。

1980年後半に急性腰痛を経験した患者の多くが、体幹深層筋群の事前収縮に収縮遅延や弱化が見られ、それが原因で局所的なストレスが増加して慢性腰痛に繋がっている事が様々な研究により判明しました。

現在の腰痛リハビリはそのような経緯から理論構築され作られたものです。

 

 

つまり、簡単に言いますと腰痛など無く、体幹深層筋群の事前収縮が正常で、ある程度の下部体幹の剛性があるならば、アスリートや一般スポーツ愛好家では必ず実施する事は無いと言う事です。

 

まぁ、健康な人が体幹トレーニングをやっても身体が悪くなる事は無いですし、近年はデスクワーク中心の方が多く、運動量の低下から体幹が弱ってる人が多いので、むしろ効果が出る人の方が多いと思いますが…万人に推奨すべきか?というと少し疑問も残ります。

 

全く健康な一般人のなかには体幹トレーニングの効果を全く感じない人も出てくる事でしょう。

それは栄養が足りない人に「サプリメント」が有効なのであって、栄養が足りている人には効果が無いのと同じ理屈です。

また、同様の理由でクライアントに処方して効果が感じれなかったトレーナーなどの中には「体幹トレーニングは必要無い!」と公言してしまってるケースもあります。

 

まぁ、それも私からしたら「極論」なんですよね。

皆さんもここまで読んでいただいた方なら「体幹トレーニングは要らない」という意見は極論だと感じるのではないでしょうか?

 

だって、そもそも作られた経緯を考えたら万人の為には作られてないからねぇ…必要無い人に効果が出ないと言うだけです。

 

また、そもそも論になりますが前述のKiblerはアスリートに求められるコア・スタビリティについて「スポーツ動作などの運動連鎖の中で四肢末端に最適な力 と動きの産生・伝達・制御を可能とする,骨盤-体幹の 位置と動きを制御する能力とし,体幹をただ固定すれば よいだけではない」と強調したと有ります。

 

つまりは、冒頭に戻りますがメソッドの考案者と言うのは「人間全体」を考えてメソッドを作っていますが、ブームにするにはどこかに「フォーカス」を当てないとインパクトが無いのです。

 

で、大体のブームになるメソッドは人間の運動のどこかに「フォーカス」を当てて流行らせようとしますから、それに素直に乗っかかってしまう人は「全人的」に人間の運動を見れなくなる傾向があります。

 

つまり、体幹トレーニングに関しては「コアスタビリティ」の概念の「切り抜き」

しかも「脊柱安定化システム」に関する部分の切り抜きですから…

 

効果が出る人も多いでしょうが、効果が無い人がいる事なんて「当たり前」なんですね。

 

そういう歴史的、理論的な経緯を知らない人は「体幹トレーニングなんて必要ない!」とか簡単に言ってしまう結末になりかねません。

 

私は一般の方は仕方が無いかも知れませんが…

プロである指導者はもう少し深堀してから発言してみては?と個人的には思います。

 

その理由は最後のまとめに記しますね。

 

《まとめ》

 

トレーニングメソッドのブームは今後も繰り返されるでしょうが、指導者側は安易に繰り返されるブームに流されるのではなく「全人的」に人間の運動を考察する視点を軸(コア)に持たなくてはいけないと思っています。

 

指導者がしっかりと軸(コア)を持てない事には、クライアントも軸(コア)を見失いかねませんからね。

 

トータルコンディショニング研究会では、特に「全人的」「総合的」に人間の健康を考える視点を軸(コア)に持つことを推奨しています。

 

 

参考文献
ファンクショナルトレーニング 渡辺ら著
バランスコンディショニング 阿部ら著
非特異性腰痛の運動療法 荒木ら著

脳卒中の動作分析 金子著
MOVEMENT GRAY・COOK著