・硬さを引き起こす活動

 前述の様な筋膜の硬さを引き起こす誘因は

  不動、誤用、過用、損傷

です。

 不動によって組織は癒着し滑走性を失います。また、ミクロ的には線維の波状構造が失われて組織の”コシ”は低下します。過用、誤用は組織の負担を増やし緻密化を招きます。損傷は炎症を起こし結果として癒着や緻密化を招きます。

 また、加齢によって線維芽細胞や線維(コラーゲン、エラスチン)は減少し、組織の弾力性は低下します。皮膚においてはシワとして確認できます。



硬い場所の見つけ方
 見て、感じて、触れて硬い場所を見つけます。



・見る

 姿勢や動作を見ます。姿勢では長さを見ます。短くなっている場所は硬くなっていることが多いでしょう。動きの中では、動いている場所と動いていない場合を見ます。動きは柔らかい場所から順に起こる、という考えから、動きが無い、もしくは、動きの小さい部分を硬いのではないか、と当たりをつけます。



・感じる

 実際には触れて感じるとなりますが、どこからでも良いので触れて全体の印象を感じてみます。ジェネラルリスニングとか傾聴とかいわれます。硬い柔らかいに限らず、意図を持たずに触れれば種々の情報が得られる事と思います。逆に硬さに注意を向ければ他の情報はシャットダウンされ、より硬さにフォーカスした情報がやってくるとことと思います。足、頭、手など部位を変えて触れてみて印象を確かめても良いです。建物を色々な方向から眺めて、より立体的に捉える感じかもしれません。また、必要があれば、揺らしたり、引っ張った、押したりしてみても良いです。そうすることで触れている箇所から離れた場所の硬さの情報を感じることができます。



・触れる

 上記の二項目から得られた情報を元に、硬いだろうと思われる箇所に実際に触れ同定していきます。「地図より現地を優先する」の原則から実際に触れてみての感触を最も優先して良いでしょう。深部など直接触れられない場所は表層を通して触れて感じたり、上記の“感じる“の情報を採用します。より部位を限定したい場合は、硬い場所を4等分し、その中でどこが一番硬いかを判断し繰り返すことで、より細く硬い部位を詰めていくことができます。




硬くなった組織の改善方法
 基本的には硬い場所を「動かせば良い」のです。徒手的にでも道具を使っても運動でもかまいません。



 筋膜(Fascia)は、冷えて、静止していると硬くなり、熱や剪断を加えると柔らかくなる"thixotropy(チキソトロピー)"の特性を持つといわれています。蜂蜜やインクの様なものです。動かさずに放っておけば硬くなり、動かすと柔らかくなります。



 神経系を介して組織の柔軟性に変化が起こることがあります。運動や徒手刺激などにより組織内に含まれる受容器に刺激が入ると、中枢神経系に作用し、その刺激に関連する運動単位の筋緊張に変化を及ぼします。また、刺激が自律神経に作用することで局所循環の改善、平滑筋の緊張変化や全身の筋緊張に影響を及ぼすと言われています。つまり、アプローチにより、筋肉や筋膜の緊張、循環に変化が出ます。



 さらに、神経系を介さない筋膜自体の変化も存在しています。運動や徒手刺激によって筋膜が引っ張られると筋膜内の細胞が活性化し、細胞が作り出すコラーゲン線維の量に増減がおきたり、線維の向きや張力に変化がおこったりします。この反応はメカノトランスダクションと呼ばれています。また、細胞に刺激が入ることでヒアルロン酸様の物質が放出され組織に潤いが取り戻されることが確認されています。



 我々が運動したり、ストレッチしたり、徒手的アプローチをすることで、組織に潤いが取り戻されたり、緊張が改善されたり、柔らかくなったり、良く滑る様になったりするのです。その影響は刺激を受けた部位に留まらず全身に波及する可能性があります。臨床の場面でも、ある部位へのアプローチにより「半身が軽くなった」とか、足にアプローチしたのに「背が伸びた」といった感想が聞かれることがあります。

 しかし、けっして柔らかくなるだけではありません。組織を損傷させれば組織は緊張し硬くなるでしょう。組織損傷後の治癒過程やリモデリングにもアプローチは影響を与えます。損傷組織に無理に刺激を加えて無駄にコラーゲン線維を増やして瘢痕組織をつくってしまうような事は避けたいものです。



まとめ 〜硬い場所を柔らかくするには〜
 硬さの原因と改善のヒントを筋膜(Fascia)を中心にお伝えしました。筋膜(Fascia)は全ての他の組織と接する唯一の器官です。我々のアプローチは筋膜(Fascia)内の細胞や受容器・神経を介した脳との語らいです。その結果、柔軟性や密度は変化します。筋膜(Fascia)はそのバイオテンセグリティの特性から、アプローチの影響が局所にとどまらず全身に波及する可能性があります。



【執筆者紹介】



宮井健太郎先生 HP http://www.rolfing-greenrug.com/
1977年生まれ
2001年 理学療法士資格取得 
以後、老人総合病院、老人保健施設、老人ホーム、小児病院、スポーツ整形外科、一般整形外科にてリハビリテーションに関わる
2006年 ロルフィングプラクティショナー認定
2010年 フランクリンメソッド エデュケーター認定
2014年 ロルフィングムーブメントプラクティショナー認定
現在、東京 有楽町線・副都心線 小竹向原駅近く、東久留米市内にて、ロルフィングとボディーコンディショニングを行う
日本ロルフィング協会会員