皆さんこんにちは! TC研究会 理学療法士の梅澤です。 

本日もコラムを読んで頂きありがとうございます。 

私は現在普段の生活としては、 おくがわ整体院 と 整形外科クリニック と 難病リハビリ と 太極拳 と 子育て を主に行っております。

 

前回のコラムでもお話させて頂きましたが、太極拳は本場中国に行って学ぶこともしてきました。

私をその様な行動にさせたのは、太極拳がとても身体にとって良い作用を及ぼすと確信したからです。 もちろん太極拳が身体にとって完璧なものではないですし、他にも身体に良いものは数多くあることは間違いないです。

 

その中でも私が太極拳が優れており、それをリハビリと掛け合わして行っていこうとした理由は、大きなものとして今までの15年程度 急性期病院と認知症病院でみてきた患者様の影響があります。 

 

詳細は前回のコラムで書かせて頂いていますが、すごく大げさに言ってしまいますと、病院に来て手術などの治療をしなければならなかった人の多くの患者様が、普段から太極拳などを行っていれば、病院にきてわざわざ痛みとリスクを伴う手術などの治療をする必要がなかったということです。 

 

そして、手術などの治療はある一定の効果はありますが、一か所手術など治療を行うということは、例えば運動器的な観点からであれば、腰椎に対して固定術を行うということはその他の胸椎や頚椎にもその後何らかの影響が及んでしまいますし、循環器系で心臓の血管の障害であればその場所の血管のみでなく脳や下肢の血管にも影響が及んでいることが多くあります。

 

 もちろん一度目の手術や治療の後に良い対策ができていれば上記のようなことも防げるかもしれませんが、中々それは困難なことも多いのでやはりそうなる前に何らかの対策が行えていることが最も良いことだと思います。 また、今はコラムの流れ上 “太極拳” を行っていればと書きましたが、普段皆さんが行っている運動でも良いものもあると思いますし、健康や医療に携わっている方であれば普段指導している運動や治療法でも対応できると考えます。

 

 それでは、本日は太極拳の効果の中でも 運動器系(転倒と骨折を中心に)について科学的根拠も踏まえながらお話させて頂きたいと思います。 論文などで最も多いのがバランス能力についてです。 

 

まあ皆さんも何となくこれは良くなりそうだと感じると思います。 

 

バランス能力向上に関しては、かなり前になりますが 平成16年に厚生労働省が“介護保険制度改革の全体像”で発表した資料の中でも 転倒を防止する各種の運動のうち最も効果があるのは“太極拳”と結論づけています。 私自身も病院勤務時代に転倒で骨折をして入院する患者様を毎日みてきました。 

 

余談ですが、高齢者の骨折には四大骨折と言って“大腿骨頚部骨折” “脊椎圧迫骨折” “上腕骨近位部骨折” “橈骨遠位端骨折” があり大腿骨頚部骨折に関しては、ほとんどの患者様に手術が必要となります。理由としては、手術しないで治そうとすると骨癒合するのに12週以上(3か月以上)かかってしまい、その間に歩行できなければ体が廃用してしまうため、一生寝たきり状態になってしまいます。また、先ほども述べましたが、手術をすると固定は短期間で行えるため手術後すぐに歩行練習などは可能となりますが、元の状態ではなく、一般的には一段階歩行能力は低下するとされています。 

 

例えますと、杖などなしで歩行ができていた方であれば、骨折後はT字杖が必要になったり、T字杖歩行の方であれば四点杖や歩行器が必要となるということです。そして、上肢の骨折に比べ、大腿骨頚部骨折は転倒時に手も出ないくらい反射神経も低下している可能性があるため、骨折後にも様々な注意が必要となってきます。

 

 話しがそれてしましましたが、転倒予防として良い理由としての根拠としては、一つ目は太極拳は常に中腰の姿勢になることが多く、その姿勢で体を支えています。 その為 “太極拳の特徴は下半身にあり” とも言われています。 

 

この筋肉の使い方は下記の三種類にわけた筋肉の使用方法がある中では、三番目の伸縮性収縮となります。 

 

“短縮性収縮(コンセントリック収縮)”:(例)肘を曲げながら動かす時の使用方法

“等尺性収縮(アイソメトリック収縮)”:(例)肘の角度を変えず保持する時の使用方法

“伸張性収縮(エキセントリック収縮)”:(例)肘を伸ばしながら筋を使用する方法

 

これが意味するところは 同じ条件下で筋肉を使用したとしたら 力の強さ(負荷)としては  伸張性収縮 > 等尺性収縮 > 短縮性収縮 となります。

 

ちなみに伸張性収縮は短縮性収縮の1.4倍ほどの力の強さ(負荷)があるとされています。 特に “体を支える力” として重要な大腿四頭筋や殿筋群を伸張性収縮で使用するため 転倒予防 に大きく寄与するわけです。   

 

二つ目としては、 “つま先を上げる力” がつくということです。太極拳は四方八方へ動くのですが、どの方向へ動くにしてもつま先をゆっくりですが足部の関節の最終域付近のところまで上げます。 また、つま先を下ろすときは踵が着床した後にゆっくり足底全面接地にしていくため 先ほどの“伸張性収縮”を使用しますし、支持する側の足も中腰姿勢が深くなるほど足部の関節は背屈位をとることになります。これがつま先などが引っかかり転倒しまう予防につながります。 

 

三つ目としては、 太極拳が“骨盤の平衡を保つ” ことをしていることです。 実際に私たちが歩行する時なども片脚の支持になる時には大きく骨盤が傾かないように主に支持側の股関節外転筋群などが大きな作用をしていることがわかっています。この負荷はおよそ体重の2~3倍あるとされています。 太極拳では足を動かすにあたり注意することの一つとして 虚実分明(虚と実をはっきり示す)という重要な言葉があり “虚”は荷重をかけない足 で “実”は荷重をしっかりとかけて支持する側を分けることをします。 そのため骨盤を平衡に保ち片脚で支持することが多く、股関節外転筋をとてもよく鍛えることができ これも転倒予防の効果を上げていると考えます。 

 

ちなみに太極拳は “後ろに歩く” こともするため歩行に大変重要な殿筋群のトレーニングにもなりますし、歩行の推進力を規定する股関節伸展角度の拡大にもつながります。

 

そして、後ろ歩きはパーキンソン病などにも一定の効果をあげていること や ある論文では後ろ歩きが記憶の機能を上げるというデータも出ています。 考えてみれば 後ろ歩きは 類人猿にはできず人間ができる というはとても興味深いことです。骨盤の傾きなどの身体の構造的なものが大きいでしょうが、後ろ歩きは視覚の能力を大きく低下させ、予測したり想像する力がとても重要となりそうですよね。

 

それが記憶などにも効果を及ぼしているのではないかとも考えられます。この論文では後ろ歩きが短期記憶の機能が向上するとのことでしたが、太極拳自体は技を沢山覚える事や手足の動きを常に連動して止まることなく動かさなければならないために認知機能の向上にも大きく効果があるともされていますので、認知機能との関係についても今後コラムで書かせて頂ければと思います。

 

 以上 長くなりましたが、転倒予防についての太極拳の効果となります。その他にも転倒した際には 骨密度などが骨折の大きく関わるわけですが、太極拳が骨密度に効果を及ぼした論文も出ており “骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン” にも記載されています。

 

バランスや転倒予防の他にも 腰痛 や 変形性膝関節症 に対しても一定の効果を上げており 例えば腰痛に対しては 太極拳が“逆腹式呼吸”を使用していることであったり、 変形性膝関節症であれば、太極拳が “膝関節の固有受容感覚”改善できたことなども大変興味深いものだと思います。 

 

この辺に関しては、今後動画や実技で実際に皆さんに有益となる情報をお届けしていければと考えておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

 

 本日もお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

 

 

<参考文献>

太極拳が体に良い理由 : 楊 進 監修   雨宮隆太 橋逸郎 著

 

コラム執筆者紹介

梅澤拓未(うめざわたくみ)先生

 

理学療法士として、急性期病院・認知症専門病院で13年勤務。

資格

理学療法士

呼吸療法認定士

認知症ケア専門士

介護支援専門員(ケアマネージャー)

福祉住環境コーディネーター2級

日本コアコンディショニング協会マスタートレーナー