江戸時代の商人の生活を舞台にした時代小説で、主人公は、大阪の寒天問屋「井川屋」の主、和助と、武士の息子鶴之輔の人情身溢れるお話です。

 

和助は大火で焼けた天満宮再建のために銀二貫を納めに行くところ、その道すがら、鶴之輔の父親が仇討ちに遭い目の前で亡くなってしまうという災難に出くわしてしまいます。

和助は持っていた銀二貫と引き換えに鶴之輔を引き取るところから物語が始まります。

 

私が江戸時代の物語りが好きなことの一つに、三方よしが根付いていたことが挙げられるのですが、和助の行いが何につけても粋なこと。大店との取引が無くなろうとも、悪商売を許さぬ潔さ。そして井川屋の丁稚となり松之助と名を変えた鶴之輔の義理堅さが、読みながらもその世界に引き込まれていきました。

 

甘酸っぱい恋愛もあり、挫折もあり、松之助の諦めない粘り強さも魅力の一つです。

 

火の手が上がるとたちまち町中を焼き尽くしてしまう大火は、この時代珍しいことではなかったので、再び天満宮に納める銀二貫を用意できるまでに実に22年という歳月を要しました。

 

最後、天満さんに銀二貫を納めに行くシーン、年老いた和助の枕元で、番頭の善次郎との掛け合いがなんとも感動を覚えるセリフとなっています。

 

またいつか読み返したい素晴らしい小説でした。