ことばがないと通説だったインカ帝国に実は言葉があった・・と言うまったく新しい史実の発見。
キープという布糸? 赤青茶黄など獣の毛から織られた糸は古くから使われ保存されてきた。結び目があったりなかったり,細さもふとさもそれぞれ地域民族氏族で違ったようだ。どうして広大なインカ帝国を支配することが出来たのだろうかと問う。それが開明の端緒かな。――数字があった・・・そして,ついに言葉(の足跡)を発見する。
キープと呼ばれる民族衣装のひとつ。そこに開明のよりどころがあった。縒り合された糸のつなぎ目を丹念に調べる女性は,インカ帝国の末裔だろうか。いや居並ぶ男性群は土地のネイティブ。独特の帽子をかぶり衣装を身につけ祀りの支度で正装していた,その首に掲げたキープを手で触り見つめて除き見る女性は考古学の大家だろうか。でもあのコロンビアから来たという女性と体形が似ている。容貌が似ていた。日本のスレンダーなマダム夫人?けなした体型だ。くるくるパーよ,と手で示したコロンビアの中年女性の顔つきは全く同類に見えた。
その布糸で編んだキープは様々な動物の皮毛だったのだ。土地で獲れた獣の毛。何頭もの毛の結晶だった。一本一本観てその動物の名を挙げていた。貂(テン)? イタチの一種?でも日本と朝鮮に棲むとある。羊やアルタカの名がクスコのあるインカ遺跡の項に出てくる。糸は,擦り切れて保存に堪えて残っていた末端から見出す過去の徴証。それからヒントを得て『解読』するのだ。その労力を想う。「ア・カ・パ」?それが何か,その名を求めて,本国スペインの公文書博物館で探すと・・・有力一族の名前だった。想定〔仮定〕が当って,考古学者冥利に尽きると感動の表情だ。《インカの山道は絶壁,といっても固い岩肌ではない。土だらけ。狭い往来のない,高所の径は轍から??「湯気?か」否,「埃」のようだ。車が走るとその後にホコリが立っているのだろうーーー「キープ」の糸をみてくれと連絡が入り,高山の村里に着く。誰もいない辺鄙な山奥(太陽があるので明るいが夜は真っ暗闇だろうに)人に会えて,ホッとする瞬間だが,なぜか,ものさみしい。時空が止まったような空間。永遠に変らない空間で,じ~~っと耐えて生きている。なんの変哲もなく生かされている,ただ黙然と愚痴も云わずに。外の世界との交わりは幸いか,それとも井の中に居た方が幸いか分からない。
でも寂しい時空だ。〔それが今の感情〕いつか行く時空》
その道の,切り立った崖の道は今にも転落しそうな土色だけの世界。家も緑の木々もない。いつ崩れてもオカシクナイような土・・・前に走る車を撮影する映像には白いものが湧いている。土煙。周りの遠大広大な景色をみながら,漏れる声「キレイですね」。助手席に乗る女性は余裕で微笑むが,図太い神経なのか,人格が丸みが出来た人柄から来るのか,・・自分の小心ぶりが情けない。それ以上に心を占領するのは,高地を石ころに車輪をとられて?グラグラと走る車。車窓から見える,その高さに,目がくらむばかり。高所恐怖症は首都東京での首都高架橋で証左済み。オオ怖い,あのカーブと同じ類い。人工も自然も高い所は怖気させる。広い海のような画像が目に入る。3800㍍を超える高い地にその湖はあった。富士山より高いのだ。そんな高地に巨大な湖?!尋常を超える真実に目を見張る。ティティカカ湖。かつて聞いたことがある名前。南米ペルー。地図は嬉しい理解の救いだ。どこにあるか,思い出せない,わからないのだ。
船が広い海の中を走る。何かを引き上げて一斉に喝采する乗員たち。
湖底に眠る遺跡を引き上げたのだ。痕跡が土にうずもれて,永久に亡くなっている過去の事実もあるという中で,残った抜け殻に貴重な遺跡が見出された。船に乗った科学者たちは皆拍手の訳がだんだん知れるのだ。そうして話題は,マチュピチュにつらなるのだった。
泥の中から出てきた光り輝く鉱石は過去に生きた種族の遺跡だろうか。壮大な研究者の解読探究の労苦の軌跡でもあると思う。新事実は歴史を塗りかえることでもあるのだ。壮大過ぎて気づかなかった。偶然は必然だという。生きている偶然と,生きることの必然。