①からの続きです。

 

「どういう事ですか?」

 

「容保様が、京都守護職から陸軍総裁職に転任なさる、という事だ」

歳三の額の皺が深くなる。

「…???」

総司が一を見た。

「つまり、我々はあくまでも『京都守護職配下』ということで、幕府より禄を頂いております。なので『守護職』が変われば、その配下となるという事です」

「それははっきりと決まった事なのか?」

歳三が訊く。

「はっ! 昨日会津藩にご加増のお達しがあり、容保様代参の神保様が固く辞退なされたのですが、本日再命が下され、拝受せざるを得なかったのです」

「その加増の条件というのが…」

「はい。征長を見越した幕府軍の新しい布陣としての『陸軍総裁職』着任」

「……」

「実は、将軍後見職の一橋慶喜様は容保様を大老に迎えようとなさったらしいのです」

一の声がいっそう小さくなった。

「しかし前福井藩主の松平春嶽公が反対なさり、総裁職就任を提案なされたとか」

「一さん凄い! どこからそういうの訊いてくるんですかぁ?」

総司が目を丸くする。

「今はそんな事ぁどうでもいいだろうがっ パンチ!

しょぼん

「一、続けろ」

「身分としては大老は総裁の下風となるからというのですが、要するに幕府の財力が長州征討には心細いということらしいです」

「それで忠義に篤い会津藩に白羽の矢を立て、武力を整えようということか」

「容保様は先に天子様より御宸翰を賜っているとも聞きおよびます。天子様よりの全幅の御信頼を裏切るというわけにはいきますまい」

「もう本当に決まっちゃった事なのですか?」

総司が口を挟んだ。

「本日、神保様が再び登城なさって、転任を命じられたというのです」

歳三が深くため息をつく。

「で、守護職は誰が後任になる?」

「おそらくは、春嶽公」

歳三の表情が歪む。

「一、山崎を勇さん湯治のところへ… いや、他の者を行かせて報告せよ」

「はっ!」

「総司」

「山崎さんを呼んでくるんですね?」

歳三が頷いた。

「山南さんの出番だ」

総司がにっこりと微笑んだ。

 

   2014年弥生18日  汐海 珠里

 

※ 十一日 内蔵助殿右同断御登城被成候処 大広間二之間ニおゐて 総裁職様 御老中様方 御列座ニ而 陸軍総裁職申付候   格別奮発勉励いたし諸事指揮致ス様ニとの御書付壱通 并京都守護職之義ハ差免スとの御書付壱通 御総裁職様御渡被成候                                  (会津藩庁記録)

今度 松平大膳大夫父子へ御糾問之筋之有り、萬一承服不致節は、御征討可被遊思召に付、其節は爲副将可被遣候間、用意可致           (七年史)

※ 富沢の屯所訪問謝罪は、「旅硯九重日記」より

☆ 2/10 京都市中ノ警守ハ、幕府之ヲ専管スルヲ以テ、諸藩兵ノ市中警守ハ後命アルマデ舊ニ依ラシム              (維新史綱要)