こんにちは。福岡大学経済学部教授の木下敏之です。

これまで時々ブログを読んでいただいた皆さん、ご無沙汰しております。

 

1800日、毎日連載した後、書き溜めたネタと言いますか研究の成果を本にまとめ、その内容を普及するため、ブログをお休みしておりました。おかげさまで「データが示す福岡市の不都合な真実」というタイトルの本を出すことができ、それなりに売れたと思います。多くの方のご協力に心から感謝します。

 

本を書くきっかけとなったのは、福岡市の一人当たり市民所得が30年間ほぼ横ばいというグラフでした。福岡市役所ではなく福岡県庁の市民経済計算のデータをもとに2021年(令和3年)まで計算してみると以下のようになります。2019年の消費税増税、2020年のコロナの影響を受け、状況は芳しくありません。

 

このようなデータですが、相変わらず福岡市の多くの人には広まりません。そこで、現在、「データが示す福岡市の不都合な真実」の続編を書き始めております。内容としては、データを更新するとともに、より解決策に重点を置いた本にする予定です。できれば年内、遅くとも来年3月には出版にこぎつけたいと思っています。

 

さて、再開後、一回目のお話は、『福岡市は東京への人口流出のダム』という言葉の問題点についてです。これ、負け犬の言葉です。

 

前々から感じていたことなのですが、4月1日付の西日本新聞の一面に、福岡市のダム機能が低下しているという趣旨の記事がでかでかと載っていたので、このままではまずいと思い、取りあげます。

 

記事の内容は、福岡市には九州各県から主に若者が流入してくるのですが、福岡市から東京に流出する人が増えていて、九州各地から東京に流れ出る若者を押しとどめるという「福岡市のダム機能」が低下しているという内容です。東京と福岡・九州の景気に差がつくと、こういうことが起こります。東京の大手企業などは続々と初任給を引き上げており、これからさらに福岡市からも若者が東京に吸い出されるという構造です。

 

福岡市長もマスコミも「福岡市のダム機能」という言葉を当たり前のように使っていますが、この言葉自体に大きな問題があります。というのは、ダムは水をためて、それを必要に応じて下流に流すことが本来の役割だからです。洪水防止機能もありますが、いずれは下流に流します。福岡市の役割は、東京に流れ出る人を少なくするのではなく、東京から若者を吸い出すことにあるはずです。「福岡市はダム機能を果たす」という言葉は、東京にはかなわないという無意識の負け犬根性が潜んでいることに気づかないといけないと思います。

 

では、「福岡市は防波堤」という言葉はどうか。これも、東京から波が押し寄せてくるということを前提にしており、無意識に負けていることを認めた言葉です。福岡がアジアのリーダー都市に本気でなろうと思うなら、「東京から若者を吸い出す」という意味の攻めの言葉を使わねばなりません。

 

どんな言葉が良いかはすぐには思いつきませんが、言葉というものは恐ろしいものです。そこに含まれている無意識の意識が実現してしまいます。例えば、「最後まで頑張れ!」という言葉は、いずれ負けるという無意識の意識が含まれていることをある人に教えてもらいました。だから、「成功するまで頑張れ!」と言わないといけないのだと。同様に福岡市民が好きな「地方最強」も同じです。東京、名古屋、大阪を除いた「地方」で一番であればよいという無意識の意識です。二軍のエースで良いのでしょうか。

 

「全ては思うことから始まる」。

 

稲盛和夫さん、そして松下幸之助さんが使っていた成功法則の鉄則です。東京から若者を吸い出すことは簡単ではありませんが、そう思わないことには何も始まりません。「東京から若者を福岡市に吸い出し、九州に供給したい」と私は思います。