今回は、企業の開業率についてです。開業率よりも

新規雇用、それも正社員の雇用がどれだけ増えたかが

より重要な指標なだというお話です。

まずは開業率についてです。

 

開業率とは法人数に占める新規開業企業数の割合

です(正確には雇用関係を開始した場合に統計上は

開業とカウントされます)。廃業した企業数の割合

をしめす廃業率という数字もあり、通常は同時に

数値が公表されます。

 

日本全体の状況については、中小企業白書2020年版の

第一部第三章の「中小企業・小規模事業者の新陳代謝」

に詳しい分析が行われています。

 

まず開業率・廃業率の1981年以降の長期的推移は

以下のグラフのとおりです。

 

 

このグラフを見ると、開業率は景気に連動している

のがわかります。今よりもバブル崩壊前の時期の方が、

開業率が高いのです。

 

アベノミクスにより景気が持ち直して開業率が

高まったものの、アベノミクスが消費税率を8%に

アップしたことにより失速したため、また開業率は

低下しています。

 

バブル崩壊など不景気で失職すると、やむをえず

独立起業する人が増えるのではないかと、私は、

思っていたのですが、日本ではそうではありません

でした。

 

またどの業種で開業が多いかについても分析が

ありまして、IT関係は第二位で、第一位は宿泊・

飲食サービス業です。

 

 

福岡市は開業率が政令市一位といっているのですが、

その内訳のデータはありません。私は福岡市の場合、

IT関係というよりも美容室や飲食店の開業が多い

と推測しています。

 

このことは福岡市の集客交流都市としての魅力を

高めるので、とても意味のあることだと思いますが、

福岡市はITベンチャーの起業が本当に盛んなのか

どうかを検証するためにも、政府レベルとまでは

いかなくても、内訳くらいは把握してもらいたい

ものです。

 

国により開業率と廃業率の動向はかなりちがいが

あります。以下のグラフのように、日本は開業率も

廃業率も低いのが特徴です。

 

 

このグラフをみて、皆さんは「起業しないから日本

はだめなんだ」と思われるかもしれませんが、最初の

グラフのようにバブル崩壊前までは今よりも高い

開業率だったわけで、日本の場合、開業率が低い

から経済が低迷しているのではなく、経済が低迷

しているから開業率が低いのではないでしょうか。

 

また、開業後の生存率についての分析が5年前の

中小企業白書で分析されていて、以下のグラフの

ように日本の新規開業企業の方が、5年後の生存率が

欧米よりも高いのです。

 

 

どんどん新しい企業ができるけれども、ばたばたと

潰れていく(社員は失業する)社会がよいのかどうか

を考えなくてはなりません。

 

どれだけ新規の企業が増えたとしても、一方で廃業

する企業もあるわけで、結局、働く人からすれば、

仕事、それも正社員の仕事がどれだけ増えたのかと

いうことがより重要な指標となります。

 

福岡市は開業率を20%にするという目標を定めて

いますが、これでは正社員の仕事が何名分増える

のかはわかりません。

 

就業者数の増加数の把握は結構大変で、全国調査と

しては5年ごとに就業構造基本調査という大規模

な調査が行われていて、直近は2017年の調査と

なります。

 

全体の数字はわからないとしても、せめて起業した

会社による就業者数の増加を継続して把握・公開

するべきですが、どの自治体も、起業促進により

どれだけ就業者数が増えているかを継続的に調査・

公表しているところはありません。福岡市役所も

把握していません。

 

まずは誘致50社以上と発表している企業のその後

も含めて、雇用がどれだけ増えたのかを公表する

ところから始めるべきでしょうか。

 

本当に重要な指標は「開業率」ではなく「就業者数

の増加」それも、できれば正社員数の増加ですね。