今回も、中央大学の山田昌弘教授の新著である

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?

という本の内容についてです。

 

これまでの20年間の日本の少子化対策は、フランスや

北欧諸国などをお手本にしていて、日本とヨーロッパ

などの社会構造の違いを考えないで行われたため、

日本の実情に合っていないということなのです。

 

では、欧米と日本の違いは何か?

同著63ページによると、欧米先進国は、三つに

分かれるそうです。

 

1.少子化が起きなかった国

 アメリカ、イギリス、オーストラリアなど

2.少子化が起きたが政策を行って回復した国々

 フランス、スエーデン、オランダなど

3.少子化が起きたが移民でしのいでいる国

 ドイツ、イタリア、スペイン、カナダなど

 

この中で、2の国々を日本はモデルにしたわけですが、

それらの国々の社会の慣習や意識は以下の通りです。

(同著64ページ)。

 

1.子は成人したら親から独立して生活するという習慣

2.仕事は女性の自己実現であるという意識

3.恋愛感情を重視する意識

4.子育ては成人したら完了という意識

 

この4つの条件は、日本社会には、当てはまりません。

子供は成人しても、独身であれば、親と同居が普通です。

仕事も、一部のキャリア志向の女性を除くと、女性の

自己実現であるという感覚は薄い人がかなりいます。

 

愛があれば他はどうでもよいということはありません。

子どもが成人しても、さらには結婚して子供を産んでも、

親が子供のことに責任を持つ意識は強いです。

 

これだけ意識や習慣が違うと、結婚して、仕事を

続けながら子育てしやすいようにしておけば、

出生率が上がるという単純なことにはなりません。

 

日本では、独身者は親と同居しているので、

結婚すると経済環境が悪化するリスクがあります。

この点は、欧米は逆で、若者は親から自立しますので、

結婚した方が経済的です。

 

山田先生は、

「日本では、多くの女性にとって、結婚、出産を

ためらう理由は、仕事が継続できるかどうかという

不安ではなく、別のところにある」

と指摘されています。

 

だから、仕事と子育ての「両立支援をしても、

少子化対策としては、空振り」に終わるのです

(同著74P)。

 

この点は、いわれてみれば当たり前なのですが、

霞が関でも地方自治体でも、政策を考える立場の人は

正社員が殆どで、しかも多くは男性です。そうなると、

女性の多くが非正規雇用で一般職が多いので、仕事が

生きがいとはならないことに思い至りません。

 

では、多くの女性の人生の目標は何か?

山田先生は、「豊かな消費生活を送ること」と

指摘されています。また、仕事の有無よりも、

「豊かな生活をして、子どもをよい学校に通わせて

いる女性を評価する」社会であると指摘されています

(同著84、85P)。

 

また、山田先生は、「日本では欧米と比べると

カップル形成意欲が低い」こと、さらには、最近では

「日本人のカップル形成意欲」が低下していることも

指摘されています。

 

日本では、「好きな人と一緒にいたいという側面と、

一緒に経済生活を始めるという二つの側面があり、

その二つの側面が揃わなかったとき、日本では経済

生活を優先する傾向が強い」のです(同著96P)。

 

また、出会いの場も減少しており、「待っていれば

自分に合った結婚相手が現れるというのは幻想」であり、

「日本の少子化対策には、カップル形成の前提としての

「結婚支援」が不可欠」と指摘されています

(同著100P)。

 

このことは、私も学生を見ていて感じることでも

ありました。伊万里市役所のように自治体上げて、

婚活をしなくてはならない合理的な理由があるのです。

 

そして、同著第四章では、今後の少子化対策を考える上で

外せない三つのポイントを指摘されています。

 

この点については、是非、この本をお読みいただきたいと思いますが、

特に若者は、結婚どころか交際を始めるにしても、

結婚、子育て、子どもの教育、自分たちの老後の

生活まで考えているということです。

 

そして、その際には、「子どもを産んだら、子どもを

育てたら、子どもが大人になったら、世間から

どのように見られるかを常に意識して行動している」

という指摘です。

 

一方、日本経済は低迷しており、人口も減少と、

将来に明るい希望を持てない若者は多いです。

それでも、自分の老後まで考え、人並みの教育を

子供にしてやりたいと考えるのです。

 

このような意識があることを前提として、どのような

政策を考えるべきか。子育て支援だけ考えていては、

政策の効果は出ないことは明らかです。

 

これから自治体としてどう取り組んでいくのか、

その具体策については、この本はあまり踏み込んでは

いませんが、効果的な政策立案の第一歩は、現状の

正確な認識から始まります。

 

夏休みにお薦めの一冊です。