今回は、「地域ブランドにただ乗りしない」というお話です。

先日、福大に講義に来ていただいた明太子の「ふくや」の

川原社長から教えていただいた創業者のお考えです。

 

私も考えたこともなかった考え方でしたが、

あまりにも素晴らしい考え方でしたので、

川原社長にご了解いただき、

皆さんにお伝えすることにしました。

 

川原社長に講義していただいたのは

「情報社会と経済」という名前の授業で、

政財界の方が一コマずつ講義をしていただく授業です。

 

昨年までは、四代目社長に来ていただいていました。

今年から、五代目の現社長に来ていただくこととなり、

初めての講義でした。

 

主に「創業者がどの様な思いでこの会社を作り、

それをどのように受け継いでいこうとしているか」

というお話でした。創業者の孫にあたるので、

息子さんである三代目、四代目の社長さんの話と違い、

創業者の思いを体系的に整理してお話しいただきました。

 

学生だけに聞かせるのはもったいない内容で、

短期的な思考をすることの多い上場企業の経営者に、

是非、聞いてもらいたいお話でした。

タイトルは「ふくや という変な会社」です。

確かに、ふくやさん、良い意味でとても「変」です。

 

まず、会社の捉え方が違います。

「会社は創業者が何かのために作ったもので、

それを引き継いでいるのが我々。

人の一生の中だけではできないことを引き継いで、

(長期的に)行っていくのが会社」という捉え方です。

確かに法人には寿命がありません。

良いことを長く続けられます。

 

創業者は、1944年、31歳の時に日本陸軍に招集され、

宮古島の近くの伊良部島に少尉として配属されました。

沖縄本島の凄惨な地上戦と異なり、米軍は、上陸せず、

徹底した爆撃と艦砲射撃のみの攻撃だったそうです。

 

本土からの補給は立たれ、食料不足に病気がまん延。

陸海軍4万人の軍人のうち、約4000人が戦死。

12.8%の戦死率ですが、大部分は餓死と病死だったそうです。

 

そこから復員してきた創業者は、

「生き残ったものとして世の中に貢献する生き方をしたい」

との思いで、事業を始められたのは有名なお話です。

 

この話は、ふくやさんのホームページでも漫画で紹介されています。

川原社長のインタビュー動画がホームページの左端に掲載されています。

是非、ご覧ください。とても勉強になります。

 

私の父も元軍人でしたが、戦争経験者は

大なり小なりこの感覚を持ち続けていたと思います。

ここまで強烈な思いを持つ方は少なかったですが。

 

創業者の趣味は納税で、

「夢は福岡市一番の納税者になること」

もよく知られた話ですが、夢の達成のために、

個人事業主の税率が法人よりも高かったので、

法人化せずに個人事業のままにしていたのです。

 

当時の所得税の累進課税は凄まじかったのですが、

具体的に創業者の納税率を聞いて、

あきれるほど感嘆しました。

 

1980年頃の所得税・住民税の最高税率は、

なんと93%(所得税75% 住民税18%)。

1979年の創業者の個人所得2億円のうち、

控除分を差し引いて納税した額は1億7300万円。

実効税率は83.5%に達します。

 

税引き後の手取り3400万円だったそうですが、

そこから寄付を2000万円もされたので、

手取り1400万円だったそうです。

当時の納税番付で、見事に福岡県で4位、

福岡市で1位に輝き、夢を達成されました。

 

今は消費税を上げて累進税率をマイルドにしていますが

(消費税の目的はここにもあります)、

このような税制があればこそ、

日本は中流社会を築き上げることができたのですね。

※ 今はアベノミクスの下、格差社会にまっしぐらですが・・・

 

創業者の言葉が講義の中で紹介されまして、

「利益を出して税金ばうんと払う。それが当然たい。」。

元市長として、涙が出るほど有難いです。

子育て支援や教育を行うには、ほんとにお金がかかるのです。

 

創業者が亡くなられた後、ふくやさんは法人化されましたが、

法人化するときに創業者の思いを引き継ぎ、

「最低でも平均1.5億円の納税」をすると決められました。

 

また同時に、「積極的な地域貢献」をすることも

目標とされたそうです。

 

ここからが目からウロコが落ちたお話なのですが、

「なぜ、地域貢献するの?」という理由を説明されました。

 

一つは朝鮮から引き揚げてきた創業者夫妻を

博多という町が受け入れてくれたことに対する「恩」。

 

そしてもう一つの理由が、

「商売が繁盛するのも、福岡というブランドを

使わせていただいているからである」ということでした。

 

「地域ブランドのおかげで商売ができているのだから、

そのような会社は地域ブランドにただ乗りしてはならない。

地域ブランドの維持のために税金を納めるべきである」

という考え方です。たしかに、ふくやさんのロゴには

「博多中洲」という文字が入っています。

この説明に、私は深く感じりました。

 

川原社長は、学生に対して、歌舞伎町、夕張、水俣

といった地名が入ったスライドを示され、

「この町の名前を聞いてどんなイメージを持つ?」

と学生に質問されました。

 

夕張だとメロンを思い浮かべる人もいますが、

自治体破産をイメージする人もいます。

水俣は公害のイメージまだ強いです。

 

それに比べて、博多という地名は、

元気で楽しい町というイメージしかありません。

ビジネスをする上では、大変な利点です。

 

多くの企業はこの地名をタダで使っているのですが、

良いイメージとしてブランドを維持していくには、

自治体の様々な努力が必要です。

 

ブランドがダメになりつつある事例としては

湯布院がありますが、これは都市計画の失敗事例です。

地域のブランドを良いままに維持していくことにも

「努力」とそのための財源が必要なのです。

 

他の企業経営者にはこのような明確な意識は薄いです。

地域ブランを利用させていたただいているのだから、

その使用料(税金)を払う。素晴らしい考え方です。

広めていかなくてはならないと思いました。