今回も、昨日の続きです。

福岡大学の「情報社会と経済」という講義に来ていただいた

(株)福岡ビジネス情報センター社長の武藤さんのお話です。

昨年もお話になった「2025年の崖」がいよいよ始まったのです。

 

「2025年の崖」は一般の方には耳慣れないですが、

地場企業の社長は絶対に知っておかなければならなりません。

2025年にはIT技術者が大幅に不足し、

ITシステムを刷新したくても、IT企業が仕事を受けない

という恐ろしい事態となるという警告です。

 

経済産業省が昨年9月に出した「DXレポート 2025年の崖

と言う名前が正式名称のこの報告書は、是非、

お読みいただきたいと思います。

 

DXとは「デジタル・トランスフォーメーション」の略で、

「将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を

活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変する」

ことを言います。

 

2017年時点で、IT人材は17万人不足していましたが、

2025年にIT人材は43万人不足と予測されています。

 

IT業界は長時間労働でキツイ職場と学生が見ているので、

福大経済学部の学生はあまりIT業界に行こうとしません。

理系の職場という認識です。新規参入が少ないです。

 

一方で、古いソフトを理解していた団塊世代の技術者は、

まもなく70歳を超えて完全退職です。

 

このような構造的な人手不足の状態に加えて、

働き方改革の悪影響があります。残業時間の上限規制です。

大手企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から

残業の上限規制が適用されます。かなりゆるい規制ですが、

これまでの上限なしから枠がはまった意味は大きいです。

 

一方で、大手企業などは、新規の投資が目白押しです。

2020年に通信技術が4Gから5Gと進化し、

膨大なデータがやり取りできるようになり、

物と物とが直接通信するIoTが本格化します。

AIの導入も加速します。若手技術者が好む新分野です。

 

そうなるとどうなるか。現在も、PL1やCOBOLなど

若手技術者が知らない言語で書かれている基幹システムを

使い続けているところが沢山ありますが、

IT企業は、これらに関する仕事を受けなくなります。

 

導入してから21年が経過したシステムは、

2017年時点では2割程度ですが、それが2025年には

6割を超えるそうです。このような古いシステムを

メンテナンスし、セキュリテイ強化ができる技術者は

すでにいないのです。

 

昨年の講義では、武藤社長は、「今すぐに、

データだけでも外部に移すこと」を奨めていました。

ハード部分も古いマシンのことが多く、

壊れても補修ができないものが多いとのことでした。

しかし、相変わらず、この動きは進んでいないようです。

 

今年の講義では、武藤社長は、

この2025年の崖について改めて話をされましたが、

ついに今年、恐れていた事態が現実に数件、発生したそうです。

 

福岡市内の上場企業が、基幹システムを刷新しようとしたところ、

これまでお付き合いのあった東京のIT企業から

(上場企業のようです)、仕事を断られたのだそうです。

 

上場企業ですら断られるのですから、これから

もっと規模の小さな企業の仕事が断られる事態が

続出する可能性が現実のものとなってきました。

対策を急がなければなりません。

 

武藤社長は、この会社に、二つの選択肢を提案したそうです。

 

一つはIT企業の買収。

しかし、IT企業がまともな経営なら技術者が反対します。

経営陣が賛成でも技術者が反対なら、買収の意味はないです。

技術者が他社に逃げてしまうからです。

 

もう一つの選択肢は、

社員にIT教育を行い、自社で取り組むこと。

現実的にこれしかないと、私も思いました。

 

現在、福岡ビジネス情報センターはこの問題に取り組むため、

研修所を開設しています。社員を教育し、2025年の崖を

乗り切ろうと思う会社の社員教育をするためです。

2年間かけて教育するとのことです。

 

素晴らしい事業だと思いますが、心配は尽きません。

武藤社長が対応できることにも人的な限界があるからです。

 

こうなると、シニア技術者をもう一度教育して

新技術の対応もしてもらえるようにする方が

早いような気もします。

 

それと文系大学生のトレーニングです。

銀行に行くよりも、はるかに将来性があると思います。