777 Books : 洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵 | 福田敏也 オフィシャルブログ PEACE! Powered by Ameba

777 Books : 洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵

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中森明夫さんのエッセイを読んでいて
洲之内徹という名前に出会いました。

戦後日本の現代美術界に
独特の視点と愛を注ぎつづけた画廊オーナー。

さっそく
「洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵」
という本をアマゾンで購入し
正月に読んでみました。

たいそう面白かった。

戦後日本アートの指南本として。
アートを見る目を養う教養本として。
広くものの見方を学ぶ参考書として。
センスある文章の書き方を学ぶテキストとして。

いくつか気になる箇所を引用してみます。

ーーー松田正平についてーーー
松田さんのアトリエは汚いが、汚らしくはない。そういう汚らしいもの、他人を意識したものが一切ない。裸の蛍光灯で照らされたその古い土蔵の中で、松田さんは誰とも会話しないし、会話を予想してもいない。話は相手は自分だけ、つまり独り言を言うだけだ。絵を描くことも独り言なのだ。ところで、現代の絵画、現代の小説、あるいは現代の評論から全く失われてしまったのがこの独語性、モノローグの精神ではあるまいか。そして、私がこんなに松田さんの絵に惹かれるのは、このモノローグの精神に惹かれるのだと、実は、先日、松田さんのそのアトリエの中に私自身がいて、ふと気づいたのである。祝島では、私はそれに気付かなかった。(169ページ)
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なうほど。「独語性」。
独語性の重要性を考えることは
CMプランナーだった時代からずっとあった。
今の自分の仕事に「独語性」はあるか。
考えさせられる。。。

ーー林倭衛の絵のことーーー
私が憧れるのは、彼女が美人だからではなく、彼女の女っぷりに魅せられるからである。いくら美人でも、ぷりのない美人なんておおよそ詰らない。では、そのぷりとは何なのか。それぞれの人間が、それなりに生きている気合いのようなものだろうか。何だかわからないけれども、女にも、男にも、泥棒にさえもぷりはある。現金輸送車を襲って金を奪い、そこまではいいが、その金で証券会社へ証券を買いに行って捕まるなんて泥棒は、泥棒っぷりがよくない。ぷりは絵にもある。聖子さんは酒豪で聞こえた林倭衛の娘で、父は飲みっぷりがよかったと彼女は言うが、それよりも、私は、林倭衛の絵は絵っぷりがいいと思う。絵っぷりのいい絵がいまは無くなった。(225ページ)
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女っぷり、泥棒っぷり、絵っぷり。
なるほど、うまいこと言う。

ーーー
そんな象徴なんか見えはしない。だが、見なくて幸い。余計な知恵はつけない方がいい。美術史は絵の現場へ立入ってはならないのだ。
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こんにち、われわれは、必要もないことを知ろうとし過ぎてはいないか。(272ページ)
ーーー
この種のカルチャー人間は、私には薄気味が悪い。彼、あるいは彼のような種類の人間は、何でも知っているし知ろうとするが、何にも感じないのではないかという気が私にはするのだ。いうなれば、カルチャーがあり過ぎてショックを受けるということがない。彼らを見ていると、カルチャー・ショックを受けることのできる私はまだしも仕合せだという気がしてくる。(270ページ)
ーーー

そうなんだよなあ。
知ることはとても大切だけど、
知ることで知った気になってることは
大事な何かを見失うことにもなる。
知っているけど感じてない人間に
なっちゃいかんと、改めて思わされる。

洲之内徹が
盗んででも自分のものにしたかった絵の数々は
宮城県美術館に洲之内徹コレクションとして
展示されているらしい。
画商としてではなく、
ひとりの絵画好きとして集め続けた
戦後絵画の数々がそこで見れるらしい。

フクダが大好きな美術館に
フランスのオランジュリー美術館があります。
その美術館は、
モネの睡蓮の展示で有名な美術館なのですが
その地下にパリの画商、ギョームのコレクション展示があります。
ギョームという画商が
自分の大好きな作品を集めたプラベートコレクション。
ルソーやピカソやスンディンやルノアールや。
画商としてではなく
絵画好きとして蒐集し自宅も壁を飾った絵画が
そのまま寄贈され納められています。
その展示が大好きです。
どの美術館の展示よりも大好きです。
ギョームという人の「好き」「好き」の気持ちが
ビンビン伝わってくるのがたまらなく楽しい。
たまらなくうれしい。

洲之内徹のことを知って
きっと宮城県美術館の洲之内コレクションも
ギョームコレクションと同じ
個人の「好き」のエネルギーに溢れた展示なのだろうなと思った。

宮城県美術館の展示が見てみたい。
洲之内コレクションが見てみたい。

仙台の人、だれか仕事でよんでくれないかな、フクダを。
仙台に呼んでくれるなら
どんな講演依頼でも
タダで引き受けるんだけどなあ。

→洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵