現代社会において、人を信用することさえもできなくなってきた、と僕は痛感している。人にだまされてしまうことだって少なくない。しかし、だからと言って人の言動を全く信用しないのは良くない。そんな世の中だからこそ、人と人とのつながりを積極的に持つことが大切だ。
この本の主人公、ハリドンは容姿が醜く、
周りの人々から見下されていた。孤独な曲芸師であるハリドンは他人を信用しようとしない。しかし町の劇場で出会った〈船長〉だけは違う。〈船長〉はハリドンにとってたった一人の友人なのだ。しかしある晩、〈船長〉はハリドン一人分の夕食とメモを残したままどこかへ消えてしまう。帰りを信じてずっと待っていたが、胸騒ぎがする。とうとう心配になったハリドンは友を探しに一人で家を飛び出した。しかし、さらに孤独な犬と出会ったり、警官に捕まったり、ハリドンには様々なことが襲いかる。
おおよそこのようなお話だが、この本を読んで、心を許せるハリドンと〈船長〉とハリドンについてきた小さな犬の三人には、何か共通するものがあると思う。それは「孤独」ではないだろうか。ハリドンが他人を信用“できない”のは、普通の生活を送る町の人には自分の境遇を分かってもらえないから、そして今まで散々に他人にだまされてきた過去があるからだと思う。だからハリドンが心を許せるのは、同じような境遇だと思われる〈船長〉や〈小さな犬〉だけなのではないだろうか。
そんなハリドンが犬と出会い、何をしてもついてくる犬に心を開き始める場面、犬は初めて「ごめん」と言われ、そして「ハリドンの役に立ちたかった」と思っていた。これを見て、自分も辛いのに、なんと優しい犬なのだろう、と思った。単に優しいといっても、本当の孤独というものが痛いほど分かるからこそハリドンの気持ちを考えることができたのだと思う。現代社会でも、僕たちが知らないところで孤独な思いをしている人はたくさんいるのでは、とこの本を読んでいてふと思った。そして自分の身近なところにもそのような人がいるだろうと思う。僕たちのできることはなんだろう、と考えるきっかけになった。
最初この本を読んで、一番に思ったのは、「なぜ〈船長〉がしばらく帰ってこなかっただけなのにハリドンは探しに行ったのだろう」
ということだった。もちろん一緒に住む友がいなくなったら誰だって心配はすると思う。しかしハリドンはなぜ探しに行ったのだろう。何度か読み返すうち、だんだんんとハリドンの気持ちが分かってきた。僕が考えるに、ハリドンにとって〈船長〉は唯一心を許せる親友だ。だから今まで何度も裏切られてきたハリドンは唯一の親友〈船長〉にまで裏切られたと思ったのではないだろうか。
〈船長〉がまだ町の劇場の支配人で、ハリドンに自分の劇場の将来について語った時、ハリドンはまだ〈船長〉を信じてはいなかった。そんなハリドンが〈船長〉の夢を聞いてただ一つだけ思ったこと、それは「夢はいずれ、パイプから吐きだされる煙のように跡形もなく消える」ということである。ここに僕はハリドンの哀しい過去を感じた。もし僕がハリドンの立場だと、まともに考えもせず〈船長〉の夢にすぐ賛同してしまうだろう。他
人を信じられないように育ってきたハリドンだからこそ〈船長〉の夢を受け止めようとしなかったはずだ。また、この表現に、とても感動した。なぜなら、パイプから吐きだされる煙というものは、最初は大きく、強く、はっきりとしている。しかし時がたつにつれてそれは少しずつうっすらと消えてゆき、後には何も残らない。実に深い意味合いだと思ったからだ。
こうして僕はハリドンからいろいろなことを学んだ。最初読んだ時はハリドンと自分とは全く違う境遇であるが故、考えも行動もよく分からないことだらけだった。しかし、ハリドンの気持ちになりきって物語をもう一度読み返すと、それは間違いだったことに気付いた。孤独の中にも人々の明るい光を追い求めるハリドンの行動は、僕たちが生活する中でも決してあり得ないことではないのかもしれない。
読書感想文でした。
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