がんとは全く無縁だった


がんは治るとよく聞いた


はじめはさほどショックもなかった


しかしいざ彼女ががんになって

がんがどれほどまでにおそろしいものか

いやというほどわかった


気休めの向こうに、ただただ現実があった


ほんの半年前まではみんながまだ笑っていたし

きぼうにもえていた


しかしがんとはおそろしく残酷なもので

突如として猛威を振るい出す


あちこちにあらわれやがる


それに気づいた時

彼女の気持ちを思うとつらすぎてくるしい


脱毛はおそろしかったろうかなしかったろう


再発の時きみはみんなの前ではぽかんとしたようにしていたが、そりゃそうだよな

うそみたいだよ


一時は手術でとりきったと狂喜乱舞で

みんなで喜びあったな


あのときは自分も人生一の喜びだったと思う


まだまだ全然、がんのおそろしさをしらなかったんだ。


きみはいま、絶望を越え、高みへと行った。


その凄まじい気力、精神力には、誰しもが感服したよ


愚痴も言わず、いつもまわりの心配ばかりで、

笑ってくれていたんだね


あのおどけたようなきらきらした表情は、再発以来みられなかったが、それでも聖母のようなほほえみを、いつもみんなにみせてくれたね。


ごめんな、なにもできなくて。


ごめんな、救えなくて。


あのときこうすれば、あーすれば、

止めどない後悔が押し寄せてくる


彼女を救えたのは、自分だったんじゃないかと


情けないよ


ごめんな


ありがとうな


果たせなかったたくさんの約束


必ず来世で果たそう。

絶対また家族になろう。