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第165回芥川龍之介賞候補作は5作品
以下、日本文学振興会のHPより
候補者一覧(作者名50音順)
候補者名 候補作 掲載誌月号
石沢麻依(いしざわ まい) 「貝に続く場所にて」群像6月号
くどうれいん(くどう れいん) 「氷柱(つらら)の声」群像4月号
高瀬隼子(たかせ じゅんこ) 「水たまりで息をする」すばる3月号
千葉雅也(ちば まさや) 「オーバーヒート」新潮6月号
李琴峰(り ことみ) 「彼岸花(ひがんばな)が咲く島」文學界3月号
ということで、今回もこれら5作品を仲間内にて批評しあい、受賞作を予想するという会に参加しましたが、コロナ禍にて会場に集まることはできず、メールにて一次評価を送り、みんなの結果を見て2次評価を送るとというものでした。やはり一同に会することがないと評価を変えるところまでいかないのか、最終の評点も一次と同じでした。
わたしの評価を書いておきます。
李琴峰さん「彼岸花が咲く島」 5点
感想・評価
まず一面に禍々しい彼岸花咲く浜辺、流れ着いた少女というイメージがいいです。
ウミとヨナ、そしてタツの3人がよく書けている。島の暮らし、産業そしてノロなどが細かく書かれていて、一つの世界の構築をしている。最後に島の歴史が明かされ、この世界が近未来、又はパラレルワールドの日本と台湾に挟まれた島であることがわかる。「美しい国日本」でナショナリズム、排斥主義に走る日本がこのままではこうなりそうな未来を暗示していて、怖い。
最後に女性中心社会からの男性排斥という難しい問題も投げかけていて、これはトランス女性差別にもつながってくるのではないか(タツはトランスではなさそうですが)。
惜しいのは島の歴史が明かされるのが最後なので、それまでが少し長いかな
高瀬隼子さん『水たまりで息をする』 4点
感想・評価
これは怖い作品でした。サイコホラーみたいな。
共働き家庭で、ほぼ男女平等がなされているような、ストレスフリーな夫婦でも、夫が風呂に入らなくなるということだけで、子供はいないけれど、どんどんそれまで正常と思われていた都会での暮らしから逸脱していく。夫婦の片方(夫)が正常と考えられる範囲を逸脱した時、もう片方(妻)にかかる圧力と、果たしてどちらが正常なのか、どちらも狂気に入っているのか、そもそも正常と狂気を分けるものは何なのか。考えさられて、読んでいる読者自身も正常なのか自分を疑うようになる(わたしはそうでした)。純文学とはこういうものだろうと思わせるような作品。LGBTなどトレンドのトピックは入ってこない地味さはあるけれども、芥川賞受賞してもおかしくない、いい作品でした。
千葉雅也さん「オーバーヒート」 3点
感想・評価
「デッドライン」の時より文章がうまくなっているように感じました。エッセイ的には面白くなっているような感じ。前のをちゃんと覚えてないので感覚だけですが。前のは哲学的テーマもうっすらわかったのですが、今回はよくわからない。オーバーヒートというタイトルも不明。確かに最後に出てくるのですが、ゲイの男性は家族を作れないからオーバーヒートなのでしょうか? 家族を作れたところで個人の死は免れないと思うのですが。いまひとつ納得のできない論理でした。あと、不思議に思ったのはゲイでも女性とセックスできるのか? という点。なっちゃんに少し惹かれているのですよね。この人はゲイとバイの中間的なひとなのか、それともゲイでもこれくらいなのか、疑問に思いました。
小説的に不要な部分がいっぱいあって、ストーリーがわからなくなるほどエッセイ的、これは実体験なのでしょうね。だから書かないといられない。書かないといられないこと自体がオーバーヒートなのかとも思いました。
小説としてはあまり評価できないけれども、面白いので、案外、芥川賞とるということもあるかなとも思いました。
石沢麻依さん「貝に続く場所にて」 2点
感想・評価
252枚、長かった。意味を考えだすとわからなくなって眠くなる。途中で何回も居眠りしながらやっと最後まで辿り着けました。
震災小説ですね。津波で流されて行方不明になったまま遺体も見つからない男が幽霊となってドイツ、ゲッティンゲンにやってくる。おもしろい話だと思いましたが登場人物も多く、寺田寅吉もでてきて、アルトドルファーの名画のモチーフがあり、太陽系の惑星巡りをして冥王星にたどり着くとか、盛りだくさんで理解できたのかどうか。「銀河鉄道の夜」を思い出させました。
語り手である「私」の存在が震災被害者「野宮」ともっと繋がりがあるのではと思って読んでいったのですが、「私」がどういう人なのか最後までよくわからない(読み落としかもしれないが)。なので「野宮」に対する想いの強さが伝わってこないのが弱さかなと思いました。
くどうれいんさん「氷柱の声」 1点
感想・評価
伊智花は滝の絵を描いていて岩手で震災に遭う。コンクールで上位を目指していたのに果たせず、震災の絵が最優秀賞、自分が描いた絵もがんばろう岩手、のようなメッセージ性のある絵が評価されて、複雑な気持ちになる。
その後も、震災を経験したが、さほどの被害に遭ってない人や、実際に被災者になった人などの話が織り込まれ、日記のような、自分語りで進んでいく。災害で言うことのできなかった声を氷に例えて、氷柱が溶けていくところでラスト。
くどうれいんさんは盛岡市在住で94年生まれ、(H Pによる)なので書かれていることは実体験に近い、実体験を元にしたことだと推察できました。私小説ぽいのかな。俳句、短歌、エッセイ、などの本を出しているようなので、感性の細かな才能がうかがえる。
けれども、芥川賞としてはどうだろうか? わたしは話題作りのために入れたのかと思ってしまいました。
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これで一次評価を送り、
みんなの返ってきた結果を合計すると高い順に
『彼岸花の咲く島』40点
『オーバーヒート』34点
『水たまりで息をする』32点
『氷柱の声』30点
『貝に続く場所にて』29点
でした。
この結果を受けて、わたしの追加感想は
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(一次選評を読んでの感想、予想)
非常に点数がバラけたなという印象です。今回、候補作の評価に明確な差を出すことが難しかったんだろうということが伺えます。わたしの評価でも『彼岸花』と『オーバーヒート』、『水たまり』はあまり差がありません。三作ともどれがとってもおかしくないかと思いました。点数の低い方の『貝に続く』も作者の非常な力量を感じますし、このように作り込んだ作品も嫌いではありません。読む方の力量を試されているようでした。『氷柱』はあまりに素朴な作風に、作者の企みが感じられないので、低くしましたが、これとて、感性豊かさをとればいい作品と言えます。
さて、予想ですが、わたしの好みからすると『彼岸花』、性的マイノリティを正面から扱った点では『オーバーヒート』でしょうか。『水たまり』は今回初めてノミネートの作者ですし、今回の受賞はないのでは。二作受賞はないかな、『彼岸花』は指摘あったとおり最後で作者の言いたいことを言っている欠点はあったが、これを推したいと思います。
個人予想 李琴峰『彼岸花が咲く島』
(『オーバーヒート』受賞も同じくらいあり得るなと思いながら)
余談
なお、巷の評で性的マイノリティを出すならメインのテーマにしなければ、というものがありましたが、これには反論したい。映画界で黒人、有色人種がテーマと関わりなく出ている(出さなければおかしい)ことからもわかるように、もっと登場人物にマイノリティを出した方がいいと思いました。むしろ出さないのがおかしい。
もちろん、性的マイノリティをテーマにしてがっつり書いてくれるのももっと読みたいですが。一性的マイノリティの希望です。
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でした。
最後に総括のオンラインミーティングがありましたが、わたしはあまりに疲れ果てたため、不参加。
みんなの最終評価も変わらず。
会としては『彼岸花が咲く島』、わたしの予想と評点でも『彼岸花が咲く島』でした。
さて、結果はどうなりますやら。
文学の仲間で(芥川龍之介賞勝手に選考会)なるものをやっていまして、わたしが参加するのは昨年の1月から3回目、ですが、今回はコロナウイルスの影響で実際に集まれず、メールで感想、評価を送り、考えて選考するというものでした。
第164回芥川龍之介賞候補作品(5作品)は
【1】宇佐美 りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号)
【2】尾崎 世界観『母影』(新潮12月号)
【3】木崎 みつ子『コンジュジ』(すばる11月号)
【4】砂川 文次『小隊』(文學界9月号)
【5】乗代 雄介『旅する練習』(群像5月号)
でした。以下にわたしの点数と感想を書いておこうと思います。(点数は最高が5点で最低1点、順位と逆)
【1】宇佐美 りん『推し、燃ゆ』(⽂藝秋季号)
150枚 点数 4点
感想を⾔葉にしにくいが、アイドルのファンになって、⼼酔し、推しを推すということ、そしてその推しが暴⼒沙汰をおこして、ネットで炎上、⼈気も落ち、引退する。推しがなくなってしまうと、あかりのアイデンティティすら保てない。⼈⽣の全てになってしまう。⾼校を退学し就職もできない、それ以上考えることもできない状態に陥るのが、読んでいても⾟い。⾔語化しにくいことを作品にした価値がある。
説明⾜らずな⽂体がとっつきにくかったが(これはうまい)、読み進むうちにわかってきた。しかし、本当に全て
理解できたかというと怪しい。読み取れてない部分もあるのではないか。読解⼒不⾜かもしれない。
成美がどういう役割を果たしているのか読み取れなかった。病気を患っているらしい病名も気になった。
【2】尾崎 世界観『⺟影』(新潮12⽉号)
150枚 点数 2点
⼩学校低学年の⼦供視点。ステレオタイプにはまらない独⾃の⼥の⼦を作り上げた。表現が感覚的で独特なのは良かった。しかし、なんとなく幼いような部分も⾒られ、こんな⼦どもいるかなぁという感じが拭えなかった。
最後に⼦どもらしい、いい感じにまとめましたというのがちょっと買えない。
【3】⽊崎 みつ⼦『コンジュジ』(すばる11⽉号)
239枚 点数 3点
せれながイギリスのバンド、カップスのリアンと幻想の恋に落ちるのと、⽗親からの性的虐待がうまく折り重なって、リアンが受けた虐待まで遡る、重層的な構造でラストのリアンの棺に⼊るところはよかった。
いい作品だと思いますが、ちょっとエンタメ⾊が強いかな、ベラさんのキャラクターがよくわからないということもありました。エンタメ作品としてはもっと枚数がいるのではという感じ。
それに⽂章はまだあまりうまくない(純⽂学的でない)ように感じた。
【4】砂川 ⽂次『⼩隊』(⽂學界9⽉号)
210枚 点数 1点
ロシア軍が北海道に攻めてきたら、リアルな⾃衛隊の装備、⾵呂に⼊れないとか、暖かいご飯が⾷べられないと
いう些細だけど⼤事なことが書かれているのは良かった。
実際の戦闘シーンもリアルに書かれていて⽬を背けたくなるようなところまで書かれている。
残虐な描写はいいんだけど、それに対する批判的精神がないと許されないと思う。
戦闘がリアルで、それを受け⼊れるのは当然という意識が⾒えてはいけない。
安達が⽣き残って、川に⼊るところで、この作品には芥川賞を取らせてはいけないと思いました。
【5】乗代 雄介『旅する練習』(群像5⽉号)
240枚 点数 5点
あっと驚くラスト。「私」の亜美に対する感情が抑制的な、奥⻭にものの挟まったような⾔い⽅が繰り返される
と思っていたら、伏線で、最後にオチがあった。
もう⼀度読み返すと、なるほどと思える箇所が多々あるのでしょう。⿃の描写、サッカーの描写(疎いのでよくわかりませんが)そして地理的、⽂化的背景、⽂章、すばらしいです。この道筋で歩いてみたい。そして、亜美が⽣き⽣きとしていて、カワウが⽻を広げる真似をするのもいいです。
ただ、旅が終わってからひっくり返る、映画でいえばエンドロールで明かされる、みたいな、トリッキーな⼿法が選考委員に嫌われるのではと思いますが。
(追記)砂川文次「小隊」について。
わたしの解釈では、この作品では戦争を災害のように捉えて、それに備えない政府や上を批判するような論調であって、主人公の小隊長は犠牲者なので、非はない。敵のロシア兵を惨殺しても正当化すると言った作品でした。わたしはそれでこれは芥川賞を取らせてはいけないと書いたのですが。この読み方が正しいとすると、候補作にあげるだけでも、お墨付きを与えることになって、いまの時代を考えると相当にまずいのではないかと思いました。候補作選考にも問題あるのではないでしょうか。
予想、乗代雄介さん単独、あるいは乗代雄介さん、宇佐⾒りんさんのダブル受賞もあるかも。
ということをメールで送ったのですが、みんなの点数をまとめると、
1位 宇佐見りん「推し、燃ゆ」50点
2位 乗代雄介「旅する練習」47点
2位 木崎みつ子「コンジュジ」47点
4位 砂川文次「小隊」42点
5位 尾崎世界観「母影」24点
で会としての受賞は宇佐見りん「推し、燃ゆ」
でした。
結果を見てのわたしの感想は、やはり宇佐見「推し、燃ゆ」強しというところでしょう。まあ、いい作品だったと思います。わたしは乗代「旅する練習」の方に高い点数を入れましたが、木崎「コンジュジ」も良いです。この3作はどれがとってもおかしくない。砂川「小隊」と尾崎「母影」はないかなと思いました。この候補作品を読めて勉強になったし、みんなの感想をみられたのは、すごく参考になったし、おもしろかったです。
最後にわたしの予想、
宇佐見りん「推し、燃ゆ」と乗代雄介「旅する練習」のW受賞。(希望を込めて)
